被告人が共犯者から犯行を共にしなければ殺すぞと脅かされたので共に強盜行爲をしたと供述しても之をもつて緊急避難行爲であるとの主張をしたものということはできない。
共犯者に犯行を共にしなければ殺すぞと脅かされたため犯罪行爲をしたとの主張と緊急避難行爲であるとの主張
刑法37條1項,舊刑訴法360條2項
判旨
共犯者からの脅迫により犯罪に従事した場合であっても、それが自己の生命・身体に対する現在の危難とはいえず、かつ犯行が避けるためのやむを得ない行為とも認められないときは、緊急避難(刑法37条1項)は成立しない。
問題の所在(論点)
共犯者からの「行かなければ殺すぞ」という脅迫を受けて強盗に加担した場合、刑法37条1項の「現在の危難」及び「やむを得ずにした行為」の要件を満たし、緊急避難が成立するか。
規範
刑法37条1項の緊急避難が成立するためには、(1)自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する「現在の危難」が存在すること、(2)その危難を避けるために「やむを得ずにした行為」であること、すなわち補充性及び法益権衡の要件を満たすことが必要である。
重要事実
被告人は、共犯者A及びBと強盗を共謀し、顔に鍋墨を塗り、棍棒を携えて被害者方を襲撃した。被害者らを脅迫・拘束した上で衣類等の物品を強取した。被告人は、公判において「Aから『行かなければ殺すぞ』と脅されたため、仕方なくついて行った」旨を供述し、緊急避難の成立を主張(または示唆)した。
あてはめ
まず、被告人が主張する共犯者からの脅迫事実は、客観的な状況に照らせば、直ちに被告人の生命・身体に対する「現在の危難」があったとは認めがたい。仮にそのような脅迫があったとしても、顔に鍋墨を塗り、棍棒を携えて組織的な強盗行為(被害者の拘束・強取)に及ぶことは、脅迫による危難を避けるための「やむを得ない行為」とはいえず、また避難行為としての相当性(補充性・法益権衡)も欠く。したがって、緊急避難の要件を充足しない。
結論
被告人の行為には緊急避難は成立せず、強盗罪の責任を免れない。
実務上の射程
共犯者間での強圧的な関係を理由とする緊急避難の主張(いわゆる「強要された犯行」)に対する判断枠組みを示す。実務上、現在の危難の存否だけでなく、犯行態様の悪質性や組織性から補充性・相当性を否定する論理として、違法性阻却事由の検討において重要な指標となる。
事件番号: 昭和23(れ)1370 / 裁判年月日: 昭和24年1月11日 / 結論: 棄却
被告人が相被告人と共謀の上、強盜をした事實を認定している原判決において、二人共謀の事實と共犯者のどちらかが現實に脅迫の實行行爲をしたことが判分上明確である以上、共犯者のうちどちらかが現實に實行行爲をしたかを明示していなくても、被告人の「罪トナルヘキ事實」の判示として缺くるところはない。