所論は裁判長の被告人に對する個々の尋問に對する被告人の供述が他の共同被告人に不利益であつたにもかかわらず、裁判長がその都度當該他の共同被告人に反對訊問するように注意しなかつた措置又はその共同被告人又は辯護人に對しその都度現實に反對尋問する機會を與えなかつた措置は被告人の證人に對する基本的權利を規定した憲法第三七條第二項に違反し無効であるというに歸する。しかし同條項は、刑事被告人は、すべての證人に對して審問する機會を充分に與えれる權利を有する旨規定しているに過ぎないのであつて、所論のような形式や時期までをも規定したと解すべきものではない。
共同被告人に尋問の都度反對訊問の機會を與えなかつたという主張と憲法第三七條第二項
憲法37條2項前段,舊刑訴法338條
判旨
憲法37条2項は、刑事被告人に対し証人を審問する機会を十分に与えることを保障するが、反対尋問の具体的な形式や時期までを規定するものではない。共同被告人の供述が不利益な内容であっても、適法に反対尋問の機会が与えられていれば、供述の都度注意喚起や尋問機会を与えなくても同条項に違反しない。
問題の所在(論点)
共同被告人の供述が他の被告人にとって不利益な内容を含む場合、裁判所が供述の都度反対尋問の機会を個別に提供し、あるいは尋問を促す注意義務を負うか。憲法37条2項が保障する「証人審問権」の具体的内容(形式・時期)が問題となる。
規範
憲法37条2項は、被告人に「すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられる権利」を規定している。しかし、これは反対尋問の「形式や時期」までも一律に規定する趣旨ではない。したがって、訴訟手続の全体を通じて適法に尋問の機会が与えられているのであれば、個々の供述がなされるごとに直ちに反対尋問の機会を付与し、あるいはその都度注意を促すことまでは要しない。
重要事実
事件番号: 昭和25(し)16 / 裁判年月日: 昭和25年10月4日 / 結論: 棄却
証人が、公判廷において、前に刑訴第二二八条によつて裁判官の面前においてした供述と異つた供述をしたため、検察官から右裁判官の面前における供述録取書類の証拠調を請求した場合に、その供述録取書類が、被疑者、弁護人等に反対尋問の機会を与えないで作成されたものであつても、裁判所がその供述録取書類を証拠調する旨の決定をすることは、…
刑事事件において、裁判長が被告人に対して個別の尋問を行った際、その供述内容が他の共同被告人にとって不利益なものであった。これに対し、特別抗告人は、裁判長が供述の都度、他の共同被告人に反対尋問を行うよう注意しなかったこと、またはその都度直ちに反対尋問を行う現実の機会を与えなかったことは、被告人の証人に対する審問権を保障した憲法37条2項に違反し、無効であると主張した。
あてはめ
憲法37条2項の趣旨は、証拠の真実性をテストするための反対尋問の機会を実質的に保障することにある。本件記録によれば、被告人(共同被告人)に対しては、その供述が他の被告人に不利益であるか否かを問わず、適法に尋問の機会が与えられていたことが認められる。憲法は特定の尋問時期や方法を強制するものではないため、供述のたびに逐一反対尋問の機会を設けるなどの手続を履践しなかったとしても、最終的に尋問の機会が確保されている以上、審問権の本質を侵害するものではない。
結論
憲法37条2項に違反しない。したがって、裁判長が供述の都度反対尋問を促さなかった措置は適法である。
実務上の射程
反対尋問権(憲法37条2項)の保障内容が「機会の付与」にあることを示した判例である。現代の刑事訴訟法下においても、共同被告人の供述を証拠とする際の証拠調べ手続(311条3項参照)において、いつ反対尋問を認めるかは裁判所の訴訟指揮権(297条等)の裁量に委ねられる。ただし、実質的に尋問の機会を奪う運用は違憲・違法となるため、あくまで「手続全体で機会が確保されているか」が判断基準となる。
事件番号: 昭和24新(つ)3 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
原審が、被告人と共犯関係にある証人の檢察官に対する供述録取書を証拠として受理したことに対する異議申立を却下した決定に対して、右録取書は、憲法第三八條第一項に違反し予め供述を拒み得ることを告げないで作成されたものであるから、これを証拠として受理することも違憲であると主張することは、刑事訴訟手続のみに関する主張に帰し、特別…
事件番号: 昭和34(し)39 / 裁判年月日: 昭和34年8月27日 / 結論: 棄却
刑訴第三九三条第二項が、控訴審における第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状に関する事実取調の必要の有無を裁判所の裁量に委ねたことは、憲法に違反しない。
事件番号: 昭和29(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人側が申請した証人をすべて喚問することを義務付けるものではなく、証拠調の必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。当該証拠が唯一の証拠でない場合など、不必要と認められる証人の尋問を却下することは同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、第一審公判において、…
事件番号: 昭和49(し)67 / 裁判年月日: 昭和49年10月4日 / 結論: 棄却
裁判所が控訴棄却決定に対する異議申立の理由の有無を判断するため事実の取調をするにあたり、被告人側に立会及び尋問の機会を与えなかつたとしても、憲法三七条二項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二七年六月一八日大法廷判決・刑集六巻六号八〇〇頁)の趣旨とするところである。