証人が、公判廷において、前に刑訴第二二八条によつて裁判官の面前においてした供述と異つた供述をしたため、検察官から右裁判官の面前における供述録取書類の証拠調を請求した場合に、その供述録取書類が、被疑者、弁護人等に反対尋問の機会を与えないで作成されたものであつても、裁判所がその供述録取書類を証拠調する旨の決定をすることは、何ら憲法第三七条第二項に違反しない。
刑訴第二二八条第二項により被疑者弁護人等に反対尋問の機会を与えないで作成された証人尋問調書の証拠調決定と憲法第三七条第二項
刑訴法228条,刑訴法321条1項1号,憲法37条
判旨
憲法37条2項の証人審問権は、反対尋問の機会を欠く書面の証拠能力を一律に否定するものではなく、公判廷で証人を尋問し被告人側に反対尋問の機会が与えられていれば、伝聞証拠の証拠採用は許容される。
問題の所在(論点)
反対尋問の機会を与えずに作成された裁判官面前の証人尋問調書を、後に公判廷で反対尋問の機会を与えた上で証拠採用することは、憲法37条2項(証人審問権)に違反するか。
規範
憲法37条2項が「刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を十分に与えられる」と規定するのは、裁判所が喚問した証人について反対尋問の機会を十分に与えなければならないという意味である。したがって、反対尋問の機会を与えないまま作成された供述書類であっても、直ちに証拠とすることが禁止されるわけではなく、後に公判廷において当該証人を尋問し、被告人側に反対尋問の機会が提供されれば、伝聞証拠(刑訴法321条1項1号等)を証拠とすることは憲法に違反しない。
重要事実
証人Aは、捜査段階において裁判官の証人尋問を受け(刑訴法227条、228条)、その尋問調書が作成された。この際、捜査に支障を生ずるおそれがあるとの理由で、被告人や弁護人には反対尋問の機会が与えられなかった。しかし、その後の原審公判廷において、証人Aは検察官の請求により証人として召喚され、被告人側の反対尋問にも十分にさらされた。その際、Aが先の尋問調書の内容と異なる供述をしたため、検察官は刑訴法321条1項1号に基づき、先の裁判官面前の証人尋問調書を証拠として請求し、原審がこれを採用した。
事件番号: 昭和24(つ)93 / 裁判年月日: 昭和25年3月6日 / 結論: 棄却
所論は裁判長の被告人に對する個々の尋問に對する被告人の供述が他の共同被告人に不利益であつたにもかかわらず、裁判長がその都度當該他の共同被告人に反對訊問するように注意しなかつた措置又はその共同被告人又は辯護人に對しその都度現實に反對尋問する機會を與えなかつた措置は被告人の證人に對する基本的權利を規定した憲法第三七條第二項…
あてはめ
憲法37条2項の要請は、裁判上の証拠調べの過程で被告人に防御の機会を与える点にある。本件では、証人Aが公判廷に喚問され、実際に被告人側が反対尋問を行う機会を十分に得ている。この事実により、憲法が保障する「審問する機会」は実質的に充足されたといえる。また、公判廷での供述が以前の供述と異なる場合に、より信用性が高いとされる前の供述書類(刑訴法321条1項1号)を証拠とすることは、適正な証拠調べの手続に基づくものであり、憲法違反とは認められない。
結論
被告人側に公判廷での反対尋問の機会が与えられている以上、反対尋問の機会なく作成された裁判官面前の証人尋問調書を証拠採用することは、憲法37条2項に違反しない。
実務上の射程
伝聞例外規定(特に321条1項1号)の合憲性を支えるリーディングケースである。証人審問権の保障は、書面作成時ではなく「公判全体を通じて反対尋問の機会があったか」で判断される。答案上は、伝聞証拠の証拠能力が争われる場面で、憲法37条2項との整合性を基礎づける趣旨論として活用できる。
事件番号: 昭和49(し)67 / 裁判年月日: 昭和49年10月4日 / 結論: 棄却
裁判所が控訴棄却決定に対する異議申立の理由の有無を判断するため事実の取調をするにあたり、被告人側に立会及び尋問の機会を与えなかつたとしても、憲法三七条二項に違反するものでないことは、当裁判所の判例(昭和二七年六月一八日大法廷判決・刑集六巻六号八〇〇頁)の趣旨とするところである。
事件番号: 昭和27(し)43 / 裁判年月日: 昭和27年10月31日 / 結論: 棄却
刑訴規則第二一六条、第二二二条の規定は第一審における刑訴第二八四条、第二八五条第一、二項にあたる事件に関するものであつて、控訴審には準用のない規定である。
事件番号: 昭和29(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年12月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人側が申請した証人をすべて喚問することを義務付けるものではなく、証拠調の必要性の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられる。当該証拠が唯一の証拠でない場合など、不必要と認められる証人の尋問を却下することは同条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、第一審公判において、…