原審が、被告人と共犯関係にある証人の檢察官に対する供述録取書を証拠として受理したことに対する異議申立を却下した決定に対して、右録取書は、憲法第三八條第一項に違反し予め供述を拒み得ることを告げないで作成されたものであるから、これを証拠として受理することも違憲であると主張することは、刑事訴訟手続のみに関する主張に帰し、特別抗告の理由とならない
証拠の受理に対する異議申立却下決定と特別抗告の理由
刑訴法198條,刑訴法309條,刑訴法419條,刑訴法四二〇條1項,刑訴法433條,刑訴法405條
判旨
共犯関係にある者が実質的に被疑者として取り調べを受ける場合であっても、憲法38条1項は黙秘権を告知しないで行った尋問を直ちに違憲とする趣旨ではない。
問題の所在(論点)
共犯者等の被疑者・被告人たる地位にある者に対し、黙秘権を告知せずに作成された供述調書を証拠として採用することが、憲法38条1項に違反するか。
規範
憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を規定しているが、供述を拒むことができる権利(黙秘権)を告知せずに尋問することまでも直ちに違憲とする趣旨ではない。
重要事実
被告人の選挙法違反被告事件において、検察官は共犯関係にあり既に起訴されていた証人B、C、Dの検察官面前供述調書(検面調書)の証拠調べを請求した。第一審裁判所は、これらの証人が公判廷において証言を拒絶したことは刑事訴訟法321条1項2号の「実質的に異なった供述をしたとき」に該当し、特信情況も認められるとして、当該各調書を証拠として採用する決定をした。これに対し抗告人は、証人らは実質的に自己の被疑事実について取調べを受けた被疑者・被告人の立場にあり、検察官が黙秘権を告知せずに作成した調書を証拠採用することは憲法31条、37条2項、38条1項に違反すると主張して抗告した。
事件番号: 昭和24新(つ)5 / 裁判年月日: 昭和24年9月7日 / 結論: 棄却
公判期日において刑訴法第一四六條により証言を拒んだ証人並びに供述をした証人の檢察官に対する各供述録取書及び被告人の司法警察職員に対する供述録取書を、檢察官が証拠として提出したのに対して、弁護人から証人の右供述録取書は同法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていないものであり、被告人の右供述録取書は同法第三二二條によ…
あてはめ
抗告人は、本件の各証人が当時既に共犯関係にある事実で起訴されており、実質的に被疑者として取り調べを受けたのであるから、検察官は刑事訴訟法198条に基づき黙秘権を告知すべき義務があったと主張する。しかし、憲法38条1項の保障する自己負罪拒否権は、不利益な供述を強要されない自由を保障するものであり、先行判例に照らせば、黙秘権を告知しないで行った尋問やその結果作成された調書が直ちに同条に抵触するものではないと解される。したがって、黙秘権告知を欠いた手続により作成された調書を証拠として採用する決定も、憲法違反には当たらない。
結論
憲法38条1項は、黙秘権を告知しないで行った尋問までも違憲とする趣旨ではないため、本件の証拠採用決定に憲法違反は認められず、抗告を棄却する。
実務上の射程
憲法上の黙秘権告知義務の有無について判断した判例である。もっとも、現行の刑事訴訟法(198条2項、291条4項等)は黙秘権告知を明文で義務付けており、実務上は法違反の有無およびそれによる証拠能力の存否(違法収集証拠排除法則)の文脈で検討される。本判例は「告知欠如=直ちに憲法違反」ではないことを示しているが、手続の適正性は法解釈の問題として処理されるべきとする射程を有する。
事件番号: 昭和24(つ)93 / 裁判年月日: 昭和25年3月6日 / 結論: 棄却
所論は裁判長の被告人に對する個々の尋問に對する被告人の供述が他の共同被告人に不利益であつたにもかかわらず、裁判長がその都度當該他の共同被告人に反對訊問するように注意しなかつた措置又はその共同被告人又は辯護人に對しその都度現實に反對尋問する機會を與えなかつた措置は被告人の證人に對する基本的權利を規定した憲法第三七條第二項…
事件番号: 昭和28(し)64 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項の証人尋問権は受訴裁判所の訴訟手続における保障であり、捜査段階の証人尋問には適用されない。そのため、弁護人の立会いなく行われた刑訴法228条の証人尋問手続は憲法違反ではない。 第1 事案の概要:検察官は、刑事訴訟法227条に基づき証人Aの尋問を裁判官に請求した。当時、被疑者には既に弁…
事件番号: 昭和34(し)39 / 裁判年月日: 昭和34年8月27日 / 結論: 棄却
刑訴第三九三条第二項が、控訴審における第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状に関する事実取調の必要の有無を裁判所の裁量に委ねたことは、憲法に違反しない。
事件番号: 昭和28(し)62 / 裁判年月日: 昭和29年2月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は受訴裁判所の公判手続における証人尋問権を保障するものであり、捜査段階の証人尋問(刑訴法228条)において弁護人の立会いを任意としたとしても、直ちに同条項に反するものではない。 第1 事案の概要:検察官が刑訴法227条に基づき証人Aの尋問を請求した際、被疑者には既に弁護人が付されてい…