一 昭和二二年勅令第一號の第一六條第一項第一號違反事件については、同二一年一月四日附覺書第一七項(本指令所定の一切の調査表、報告書若しくは申請書の故意の虚僞記載又は此等の中に於ける充分且安全なる發表の懈怠は降伏條件の違反として連合國最高司令官之を處罰することを得べし、更に日本帝國政府は右の如き故意の虚僞記載又は不發表に對し日本裁判所に於て日本法律に依り適當なる處罰を爲すに必要なる一切の規定を爲し且必要なる起訴を行うものとす)により、日本の裁判所が審判權を有することは明白である。 二 昭和二二年勅令第一號第一六條第一項第一號には「第七條第一項の調査表の重要な事項について虚僞の記載をし又は事實をかくした記載をした者」と規定されているから、同號違反事件の審判をするには、日本の裁判所は、當該調査表の事項が重要な記載事項に屬するか否か、該事項が調査表記載當時存在していたか否か、被告人が調査表記載當時該事項が存在しない虚僞のものであることを認識しながら敢て虚僞の記載をしたか否か又は記載當時該事項が充分且つ完全に存在することの認識を有しながら敢て不完全且つ不充分に發表して事實をかくした記載をしたか否か等犯罪構成事實の存否を審判する權限をも有するものといわなければならない。しかのみならず、調査表は、公職追放手續の資料として、その手續の初頭に提出されるのを普通とし、從つて、前記勅令の第一六條第一項第一號違反の犯罪は、追放前に成立するものであり、且つ、その記載事項は追放に該當する事項に限定されるものではなく、また、追放は、調査表以外の資料をも審査し調査表に記載されていない事由に因つても行われるものであるから、同事件においては日本の裁判所は、追放手續そのものには關係なく、専ら調査表につきその記載當時における前示犯罪構成事實の有無を審判すべき筋合である。 三 連合國總指令部の指摘の趣旨を審究するに、追放は、前示一九四六年一月四日の覺書を履行するために行われる特別な行政處分であつて、これが手續一切はその初頭たると中途たると結果たるとを問わずすべて日本の裁判所の權限外であり、從つて、その手續の結果追放處分が行われたときは、その處分の根據が眞實であるか又は充分であるか等處分の根據の有無を審理することは日本の裁判所の權限内にないものと解すべきである。 四 日本の裁判所は、前記違反事件において、追放機關が追放の根據として認定しない換言すれば覺書該當の理由としない調査表の記載事項について、その存否を認定する審判權限を有すること明らかである。また、覺書該當の理由となつた事實であつても、これに對する被告人の主観的認識の有無については審判權限を有するものと解さなければならない。なぜなら、若しかゝる主観的認識の有無についての審判權限を有しないものとすれば日本の裁判所は犯意なき者を罰する機關に過ぎないことになり刑事裁判の本質に反するからである。
一 公職追放令違反事件に對する日本の裁判所の裁判權 二 昭和二二年勅令第一號第一六條第一項第一號違反事件における審判の範圍と追放處分 三 追放處分の根據に對する日本の裁判所の權限の有無 四 覺書該當の理由となつた事項に對する被告人の主観的認識の有無につき審判することの可否
昭和22年勅令1號公職に関する就業禁止、退官、退職等に關する件16條1項1號,昭和22年勅令1號公職に關する就業禁止、退官、退職等に關する件7條1項,昭和22年勅令1號公職に關する就業禁止、退官、退職等に關する件16條1項1號,昭和22年勅令1號公職に関する就業禁止、退官、退職等に關する件,昭和22年勅令1號公職に關する就業禁止退官退職等に關する件,昭和21年1月4日附覺書17項,昭和21年1月4日附覺書
判旨
連合国最高司令官の指令に基づく公職追放処分につき、日本の裁判所は、追放機関が認定した処分の根拠事実(公職該当性)の存否を審理する裁判権を有しない。もっとも、刑事事件として起訴された場合、追放理由となっていない事実の存否や、追放理由となった事実に対する被告人の主観的認識(犯意)の有無については、裁判権を行使し得る。
事件番号: 昭和24(オ)79 / 裁判年月日: 昭和25年7月6日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】内閣総理大臣による公職追放覚書該当者の指定行為の無効確認を求める訴えは、日本の裁判所の裁判権に属さない事項であり、不適法な訴えとして却下されるべきである。 第1 事案の概要:上告人は、昭和22年4月の参議院議員選挙に立候補し当選したが、同年5月に内閣総理大臣から公職追放覚書該当者として指定を受けた…
問題の所在(論点)
連合国最高司令官の指令に基づく公職追放手続に関し、日本の裁判所が、その処分の根拠となった事実の存否や刑事罰の要件となる主観的認識を審理・認定する権限を有するか。
規範
1. 公職追放手続は連合国軍の指令を履行するための特別な行政処分であり、日本の裁判所は当該手続(処分の根拠事実が真実かつ十分であるか等)について裁判権を有しない。2. ただし、調査表の虚偽記載罪等の刑事事件において、(1)追放機関が追放の根拠としていない事項の存否、および(2)追放の根拠となった事実に対する被告人の「主観的認識(犯意)」の有無については、日本の裁判所の審判権限に属する。
重要事実
被告人は、公職資格適格審査の調査表に、A協議会の中央委員および生活局長であった事実を記載せず、かつ同会の政治局委員および東京都地区責任者であった事実を隠したとして、昭和22年勅令第1号(公職追放令)違反で起訴された。これに対し、内閣総理大臣は被告人を中央委員等の職にあったことを理由に覚書該当者として追放指定した。一審の奈良地裁は、被告人がA協議会の役員等に就任した事実は認められないとして無罪を言い渡し、確定した。これに対し、検事総長が裁判権の範囲を誤ったものとして非常上告を申し立てた。
あてはめ
1. 公職追放は憲法外の特別な処分であり、追放機関が確認した「中央委員および生活局長」という追放の根拠事実に遡ってその存否を否定することは、日本の裁判所の裁判権外である。2. 一方、検察官が起訴した「政治局委員および地区責任者」という事実は追放理由に含まれていないため、裁判所がその存否を審理することは権限内の行為として正当である。3. また、追放理由となった事実についても、虚偽記載罪の成立には主観的な犯意が必要であり、犯意の有無を審理しなければ裁判所が「犯意なき者を罰する機関」となり刑事裁判の本質に反するため、この点については審判権を有する。
結論
原判決のうち、追放の理由となった事実(中央委員等の就任)の存否を判断した部分は、日本の裁判所の権限外の行為として失当であり、その限度で破棄される。ただし、追放理由外の事実の不存在による無罪判決自体は、権限内の行為として維持される。
実務上の射程
ポツダム宣言受諾に伴う占領下の特殊な法状況に関する判例であり、現在の行政処分に対する司法審査の一般論としてそのまま適用することは困難である。もっとも、行政処分を前提とした刑事裁判における「裁判所の審査権限の限界」という文脈では、処分理由の存否(行政判断の尊重)と、刑事責任の固有要件(主観的過失・故意等)の区別を示す素材となり得る。
事件番号: 昭和24新(れ)1 / 裁判年月日: 昭和25年2月15日 / 結論: 棄却
一 上告人の住所が内閣總理大臣にとり知り得る状況にあつたにかかわらず上告人に通知しなかつたことは、追放令の假指定手續が追放に關する法令の規定する要件を完備していないことになるとの論旨第二點は判例(昭和二三年(れ)第一八六二號同二四年六月一三日大法廷判決參照)にいわゆる追放該當者として指定されたことが無効であるとの主張に…