一 記録を精査するに、昭和二二年一一月一二日午前一一時の原審第一回公判期日において、辯護人田中榮藏不出頭のまま開廷の上審理を遂げ辯論の終結せられるに至つた経緯については、洵に論旨所論の通りである。しかし、右原審の公判には、共同辯護人中井宗雄が田中辯護人に代つて出頭し被告人の辯護に當つて居り被告人も同辯護人の辯論はこれを抛棄する旨の意思を表明していることも亦記録上明らかであるからその間における原審の公判手續には「不法に辯護權の行使を制限した」というような違法は存在しない。 二 同一辯護人の擔當する別個の刑事事件の公判期日が各別異の裁判所によつて同一日時に指定せられた場合にあつては、その間に處して適當なる考慮を拂い、辯護人の支障を來さないよう措置を講ずべきは、固より推奬せらるべきところではあるが、本件の場合、宇都宮地裁が同一日時にその公判期日を指定したからというて、必ず原審(東京高裁)が先に指定していたその公判期日を變更せねばならぬという理由は毫末もなく、又辯護人としても原審公判には必然的に出頭不能という譯でもないのであるから、原審が右期日變更の申請を許容しなかつたことは、當不當の問題はしばらく措いて、これを目して違法であると斷ずることはできない。
一 辯護人の公判期日變更申請の却下と辯護權の制限 二 辯護人の公判期日變更申請の却下の適否
刑訴法334條,刑訴法410條11號
判旨
弁護人が他の刑事事件と公判期日が重複したことを理由に期日変更を申し立てたとしても、裁判所がこれを却下し開廷することは、共同弁護人が出頭しており被告人が弁論を放棄した等の事情がある限り、弁護権を不法に制限する違法な手続にはあたらない。
問題の所在(論点)
弁護人が他事件との期日重複を理由に期日変更を申し立てた際、これを却下して開廷した原審の手続が、憲法上の弁護人依頼権を侵害し、不法に弁護権の行使を制限した違法なものといえるか。
規範
同一弁護人の担当する別個の刑事事件の公判期日が、異なる裁判所によって同一日時に指定された場合であっても、裁判所には当然に公判期日を変更すべき義務はない。期日変更の申請を許容しないことが直ちに違法となるものではなく、他の弁護人の出頭状況や被告人の意思表示など諸般の事情に照らし、実質的に弁護権の行使が不当に制限されていない限り、裁判所の裁量として適法である。
重要事実
被告人の弁護人田中は、本件原審の公判期日が別の担当事件(宇都宮地裁)の期日と重複したため、理由を疎明して期日変更を申請したが却下された。原審は、田中弁護人の不出頭のまま開廷したが、そこには共同弁護人中井が出頭して弁護にあたっていた。被告人自身も、田中弁護人による弁論を放棄する旨の意思を表示した上で審理が進められ、弁論が終結した。
あてはめ
本件では、宇都宮地裁の期日指定があったからといって原審が先行して指定していた期日を変更すべき法的必然性はなく、弁護人にとっても物理的に出頭不能とまでは断定できない。また、公判には共同弁護人が出頭して適切な弁護活動を行っており、被告人自らも不在の弁護人による弁論を放棄する意思を明確に示している。これらの事実を総合すれば、形式上のみならず実質上も、被告人の弁護権が著しく制限されたとはいえず、裁判所の措置は適法な範囲内にあると評価される。
結論
原審の期日変更申請の却下および開廷手続に違法はなく、弁護権制限の主張は採用できない。上告棄却。
実務上の射程
裁判所の期日指定に関する広範な裁量を認める判例である。答案上は、弁護人の欠席が「実質的な弁護権の侵害」に至るか否かを、共同弁護人の有無や被告人の真意、審理の進捗状況から検討する際の指針となる。ただし、現代の刑事訴訟では被告人の権利保護の観点から、より慎重な配慮(推奨されるべき措置)が求められる点には留意が必要である。
事件番号: 昭和24(れ)986 / 裁判年月日: 昭和24年6月7日 / 結論: 棄却
一 適法に召喚を受けた公判期日に何ら納得すべき理由なくして缺席した辯護人は、同公判期日における審理の進行状況、次回期日指定の有無等については、自ら進んでこれを確めるだけの努力をすべきこと、辯護人としてはむしろ當然の事である。殊に本件のごとく被告人および相辯護人が公判期日に出頭して次の期日の指定の告知を聞いた場合には、被…