一 適法に召喚を受けた公判期日に何ら納得すべき理由なくして缺席した辯護人は、同公判期日における審理の進行状況、次回期日指定の有無等については、自ら進んでこれを確めるだけの努力をすべきこと、辯護人としてはむしろ當然の事である。殊に本件のごとく被告人および相辯護人が公判期日に出頭して次の期日の指定の告知を聞いた場合には、被告人または相辯護人において次回公判期日までに缺席辯護人と連絡を取つて公判の準備を整うべきであり、もしやむを得ない事情によつて再び出頭し得ない場合には、延期の申請その他適當な手段がありそうなことである。さて記録によれば、第六回公判期日につき海野辯護人に對して召喚手續がとられなかつたことは、論旨の通りであるが原審は右期日以外の公判期日にはすべて適法な召喚状を同辯護人に送達している。そして海野辯護人は原審公判に一回も出頭していないのであつて、しかもその不出頭の理由については記録上何らの望むべきものがない。その状態においてたまたま一回の召喚状不送達を自己の利益に援用するのはいかがなものであろうか。要するに原審が「不法に辯護權の行使を制限した」とは云い得ないのであつて、論旨は理由がない。 二 (殺害行爲の場所、死亡の日時等)は犯罪構成要件たる事實でない。もちろん犯罪事實の同一性を確定する必要上それらの事實も證據によつて認定すべきであるが(舊刑事訴訟法第三三六條)證據によつて認定した理由を一々判決書に記載する必要はない。 三 しかし、殺人罪において行爲と結果との間の因果關係を判示するには死亡の結果が被告人の行為に起因するものであることを見て取り得る程度で充分であつて、必ずしもその因果關係の經過を細大漏らさず説明しなければならないものではない。(前掲昭和二三年九月九日第一小法廷判決参照)それゆえ本件においても多量出血と死亡との間に脳貧血とか脳震蕩というような經過があつたにしても、結局において被告人の傷害行為による多量出血のための死亡たることに變りはないのであるから、判決文と檢案書の記載との間には何らの食いちがいもないのであつて、原判決が證據なくして因果關係を認めたという論旨は理由がない。
一 第六回公判期日以外は各期日毎に適法な召喚を受けながら理由なくして缺席した辯護人と「辯護權の不法制限」 二 犯罪行爲の場所、死亡の日時等證據によつて認定した理由を判決書に記裁することの要否 三 殺人罪において行爲と結果との間の因果關係を判示する程度
舊刑訴法320條2項,舊刑訴法410條11號,舊刑訴法336條,舊刑訴法360條1項,刑法240條
判旨
複数の弁護人がいる場合において、一部の弁護人が適法に召喚された公判期日に不出頭であっても、裁判所が当該期日に出席した被告人及び相弁護人に対し次回期日を告知すれば、欠席した弁護人に対し改めて召喚状を送達しなくても弁護権の不当な制限には当たらない。
問題の所在(論点)
複数の弁護人が選任されている事件において、一部の弁護人が欠席した公判期日に次回期日が指定・告知された場合、欠席した弁護人に対する個別の召喚状送達を省略して審理を進めることは、弁護権の不当な制限に当たるか。
規範
弁護人が複数選任されている場合、一部の弁護人が適法に召喚された公判期日に何ら正当な理由なく欠席したときは、当該期日において裁判所が被告人及び出頭した他の弁護人に対し次回期日の指定・告知を行った以上、欠席した弁護人に対して重ねて召喚手続(召喚状の送達)を行う必要はない。欠席した弁護人は、自ら審理の進行状況や次回期日の有無を確認すべき義務を負う。ただし、裁判所が「次回期日は追って指定する」と告知しながら、その後に個別の通知を怠った場合は、弁護権の不当な制限となり得る。
重要事実
強盗殺人事件において、被告人には複数の弁護人が選任されていた。第5回公判期日において、弁護人の一人である海野弁護士が不出頭であったが、裁判所は同期日に出席していた被告人および相弁護人の立会いの下で、第6回公判期日を指定・告知した。海野弁護士に対しては、第6回公判に関する召喚状は送達されなかった。第6回公判当日、海野弁護士は出頭しなかったが、裁判所は出席した相弁護人の立会いのもとで弁論を終結し、判決を言い渡した。被告人側は、海野弁護士に対する適法な召喚手続を欠いたまま弁論を終結したことは、不法に弁論権を制限した違法(旧刑訴法410条11号)に当たると主張して上告した。
あてはめ
本件では、海野弁護士は第5回公判期日に適法な召喚を受けていたにもかかわらず、正当な理由なく欠席している。同期日において、出頭した被告人及び相弁護人に対し、第6回公判期日が直接告知されている以上、共同弁護の性質上、被告人や相弁護人を通じて欠席弁護士に連絡を取り、準備を整えることが可能である。また、海野弁護士は原審の全期日を通じて一度も出頭しておらず、自ら審理状況を確認する努力も怠っていた。このような状況下で、一回限りの召喚状不送達を理由に弁論権の制限を主張することは認められない。したがって、裁判所が改めて召喚状を発送せずに審理を終結させたとしても、適法な手続の範囲内といえる。
結論
弁護権の不当な制限には当たらず、原判決に違法はない。上告棄却。
実務上の射程
数人の弁護人がいる場合の召喚手続の合理化を認めた判例である。実務上、期日指定の告知(刑訴法273条2項等)の効果が、不出頭の弁護人に対しても間接的に及ぶことを示唆する。ただし、弁護人が一人の場合や、全員が欠席した期日に「追って指定」とされた場合には、個別通知を欠くと重大な手続違法となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和24(れ)1062 / 裁判年月日: 昭和24年10月11日 / 結論: 棄却
第一回公判期日につき辯護人に對し適法な召喚手續がとられている以上同公判期日に同辯護人が出頭しない場合は特別の事情がない限り裁判所が公判廷において次回公判期日を指定告知すれば足り不出頭の辯護人に對し重ねて舊刑事訴訟法第三二〇條の召喚手續をする必要なく第二回公判以後の公判期日についても順次同様であることは大審院判例の示すと…