一 裁判所が豫斷によつて事實を認定してならないことは、まことに所論の通りである。しかし原判決は、その舉示の證據にょつて、被告人が實際に收受した數は計約三石七斗であつたにもかかわらず、これを二石八斗として買受け賣主に異議なく同量の代金を受取らせたという事實を認定し、更らにこの事實に基く推認と他の證據とを綜合して被告人が右の籾の盜品であることの情を知りながら買受けたいという事實を認定したものである。證據にょつて認定した事實に基いてなされた推認は、結局證據に基いてなされた認定であつて單なる豫斷ではない。それ故にかような推認を資料とすることは、採證の法則に違反することでない。而も原判決は、右の推認の證據と綜合して判示の犯罪事實を認定したのであるから、所論のような非難はなおさら當らない。 二 論旨は、原判決舉示の證據の一々について、何れも證據價値のないものであることを述べ、原判決が、被告人に有利な證據を顧みないで右のような價値のない證據にょつて犯罪事實を認定したことを以て、採證の法則を誤つたものであると主張している。しかし個々の證據單獨では犯罪事實を認定することができない場合でも、それ等を綜合して犯罪事實を認定することを妨げるものではない。
一 證據によつて認定した事實に基く推認の證據力 二 單獨では犯罪事實を認定するに足りない證據と綜合認定
刑訴法336條,刑訴法337條
判旨
事実認定において、証拠から直接得られた間接事実に基づき推認を行うことは予断に基づく認定ではなく、また個々の証拠で犯罪事実を認定できない場合でも、それらを総合して認定することは許容される。
問題の所在(論点)
証拠に基づき認定された間接事実から、犯罪事実の主要部分(犯意など)を推認することが、予断による事実認定として採証の法則に違反するか。また、個別の証拠では不十分な場合に証拠を総合して認定することの可否。
規範
証拠の取捨選択及び事実の認定は裁判所の専権に属し、経験則に反しない限り、証拠によって認定した事実に基く推認を事実認定の資料とすることは採証の法則に違反しない。また、個々の証拠が単独では犯罪事実を認定するに足りない場合であっても、複数の証拠を総合して犯罪事実を認定することは妨げられない。
事件番号: 昭和28(あ)1283 / 裁判年月日: 昭和31年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】犯罪事実を直接証明する証拠がない場合であっても、間接事実から犯罪事実を推理して認定(推認)することが認められる。また、適用すべき罰条の記載に誤りがあったとしても、それが訴因の追加請求を無効ならしめず、判決に影響を及ぼさない場合には、適法なものとして維持される。 第1 事案の概要:被告人は農業協同組…
重要事実
被告人は盗品である籾(もみ)を買受けたとして盗品等有償譲受罪に問われた。原審は、被告人が実際に収受した籾が約三石七斗であったにもかかわらず、これを二石八斗として買い受け、売主に異議なくその代金を受領させたという事実を証拠に基づき認定した。その上で、この間接事実と他の証拠を総合し、被告人が当該籾を盗品であると知りながら買い受けた(情を知っていた)という主観的態様を推認して有罪とした。
あてはめ
原判決は、単なる予断ではなく、挙示の証拠によって「実際の量より少なく偽って代金を支払った」という具体的な事実をまず認定している。この事実に基く推認は、証拠に基いてなされた認定そのものであり、単なる予断とはいえない。また、個々の証拠のみでは直ちに情罪の立証に至らなくとも、複数の証拠を総合して判断する過程に経験則違反等の欠陥は認められないため、適法な認定といえる。
結論
被告人が盗品であることの情を知りながら買い受けたという事実認定は、適法な証拠調べと推認過程を経ており、採証の法則に違反しないため、上告は棄却される。
実務上の射程
間接事実による推認(間接正拠による事実認定)の正当性を確認した判例である。答案上は、故意(知情)などの内心的事実について、客観的な間接事実を積み重ねて総合的に推認する手法が刑事訴訟法上の自由心証主義の範囲内であることを論証する際に活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)908 / 裁判年月日: 昭和23年12月24日 / 結論: 破棄差戻
第一審相被告人Aに對する判事の訊問に對いてなした、同人が玄米三俵を自宅より四丁位離れた附近まで運搬して被告人に引渡したこと及び同人が歸宅して疊の上に上つて見ると新聞紙に三六〇〇圓の金があつたこと、その金は、被告人がその後廣島方向へ行つて、行先きが判らなかつたので、そのまま返還はしていない旨の同人の供述記載をば、被告人の…
事件番号: 昭和26(あ)2837 / 裁判年月日: 昭和29年1月21日 / 結論: 棄却
粳籾を贓物である情を知りながら買い受けた贓物故買の罪とこれを運搬移動した食糧管理法違反の罪とは、牽連犯ではなく、併合罪である。
事件番号: 昭和23(れ)116 / 裁判年月日: 昭和23年5月29日 / 結論: 棄却
職權をもつて原判決を調査するに、原判決はその法律適用の項において、「昭和二二年一〇月二六日法律第一二四號第一〇條」と記載しているのであるが、同法律は刑法の一部改正に關する法律であつて、同法には第一〇條という規定は存在しないのみならず、原判決が同法をここに引用したのは、本件被告人の公程價格を超えて、うるち精米を賣買した數…