一 互に暴行し合ういわゆる喧嘩は、鬪爭者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一團の連續的鬪爭行爲であるから、鬪爭の或る瞬間においては、鬪爭者の一方がもつぱら防禦に終止し正當防衞を行う観を呈することがあつても、鬪爭の全般からみては、刑法第三六條の正當防衞の観念を容れる餘地がない場合がある。 二 原判決はその理由において、本件のような喧嘩の際における鬪爭者の鬪爭行爲は互に攻撃及び防禦をなす性質を有し、一方の行爲のみを不正の侵害なりとし他の一方のみを防禦行爲なりとすべきではなく、從つてその鬪爭の過程において被告人が相手方に加えた本件反撃行爲はこれを正當防衞と解し得ない旨説示して原審辯護人の正當防衞の主張を排斥している。そして、被告人の行爲が不正の侵害に他意する防衞行爲でないことを説示した以上、防衞の程度を超えた行爲も成立し得ないことは當然である。 三 論旨前段で主張する事由(被告人は悔悛しているから實刑を科する必要はないと主張したこと)は刑事訴訟法第三六〇條第二項に規定する事實上の主張に當らないからこれに對する判斷を判決に示す必要はない。 四 本件について、第一審の第一回公判期日が指定されたのは昭和二二年五月二日であつて、第二審判決が言渡されたのは昭和二二年一一月二二日であること記録上明らかである、新憲法の施行以後第二審判決の言渡まで約六ケ月半を費したに過ぎず、その間現物の檢證、證人の訊問等の手續を經た本件審理は毫も憲法第三七條の規定に反するものではない。
一 喧嘩と正當防衞 二 喧嘩と過剰防衞 三 被告人は悔悛しているから實刑を科する必要がないとの主張と刑訴法第三六〇條第二項 四 第一審の第一回公判期日の指定より第二審の判決言渡まで六ケ月半を要した、審判と憲法第三七條第一項にいわゆる「迅速な裁判」
刑法36條,刑法36條1項,刑法25條,刑訴法360條2項,憲法37條1項
判旨
互いに暴行し合う喧嘩は、一団の連続的闘争行為であるため、その一部で一方が防御に終始する局面があっても、全般の情況から見て正当防衛を認める余地はない。
問題の所在(論点)
互いに暴行し合う「喧嘩」の最中において、一方が劣勢となり攻撃を受けた際に反撃した場合、刑法36条の「急迫不正の侵害」に対する防衛行為として正当防衛または過剰防衛が成立するか。
規範
喧嘩は、闘争者双方が攻撃及び防御を繰り返す一団の連続的闘争行為である。したがって、闘争の全般から見て刑法36条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合には、ある瞬間において一方が専ら防御に終始する態様を呈していても、正当防衛は成立しない。また、防衛行為が否定される以上、過剰防衛の成立する余地もない。
重要事実
被告人はAと口論の末、互いに殴り合いの喧嘩となった。被告人はAに殴られながら後方へ押され、鉄条網に仰向けに押しつけられた上、睾丸を蹴られた。これに憤激した被告人が、所持していた小刀でAを切りつけ、左上膊動脈切断による失血死に至らせた。
あてはめ
被告人の行為は、当初から互いに殴り合う喧嘩の過程において行われたものである。一団の連続的闘争行為の全般から見れば、被告人が一時的にAに圧倒され、防御的な状況に陥ったとしても、それは喧嘩の一局面に過ぎない。また、被告人の反撃は執拗な攻撃に対する「憤激」からなされたものであり、全般の情況に照らせば、正当な防衛行為とは認められない。防衛行為自体が否定されるため、相当性を超えたとする過剰防衛も成立しない。
結論
被告人の行為に正当防衛は成立せず、刑法36条を適用すべき余地はない。したがって、殺意の認定に基づく有罪判決は正当である。
実務上の射程
喧嘩における「急迫不正の侵害」の否定に関するリーディングケース。実務上は「喧嘩の闘争性」により侵害の急迫性や防衛の意思を否定する論理として用いられるが、後の判例(最判昭52.7.21等)により、予期された侵害に対する例外法理へと精緻化されている点に注意を要する。
事件番号: 昭和26(れ)67 / 裁判年月日: 昭和26年6月15日 / 結論: 棄却
原判決が右司法警察吏の捜査報告書の記載を証拠としたのは、専ら被害者Aの死亡した日時及び場所が判示のとおりである事実のみを認定するためであつて、その他の判示事実には閑連のないものであることは原判決自体に徴し明らかである。そして、傷害致死の罪において殺害者の死亡した日時場所は罪となるべき事実ではなく、従つて適法に証拠調を経…