原判決が右司法警察吏の捜査報告書の記載を証拠としたのは、専ら被害者Aの死亡した日時及び場所が判示のとおりである事実のみを認定するためであつて、その他の判示事実には閑連のないものであることは原判決自体に徴し明らかである。そして、傷害致死の罪において殺害者の死亡した日時場所は罪となるべき事実ではなく、従つて適法に証拠調を経た証拠によつてこれを認定しなければならないものではないのであるから、所論捜査報告書については証拠調の手続がなされていないからといつて原判決破棄の理由とならない。
数個の証拠を綜合して事実を認定した場合そのうちの一証拠が証拠調を経ていなくても判決破棄の理由とならない事例
旧刑訴法336條,旧刑訴法360條1項,旧刑訴法410條19號
判旨
喧嘩のように双方が攻撃・防御を繰り返す連続的闘争においては、急迫不正の侵害を欠くか、あるいは防衛の意思が認められないため、正当防衛が成立する余地はない。
問題の所在(論点)
互いに暴行し合う「喧嘩」の状態にある場合、急迫不正の侵害(刑法36条1項)が認められるか、あるいは正当防衛の成立が認められるか。
規範
喧嘩は、闘争者双方が攻撃および防御を繰り返す一団の連続的闘争行為である。したがって、闘争のある瞬間において一方がもっぱら防御に終始しているように見えても、闘争の全般から見て刑法36条の正当防衛の観念を容れる余地がない場合がある。
重要事実
被告人は、劇場内で映画観覧中に被害者Aから呼び出され、Aが喧嘩を挑んでくることを察知した。被告人は「逃げるのは卑怯だ」と考え、あえて拒否することなく指定の場所へ赴いた。路上でAから因縁をつけられ2回ほど顔面を殴打された際、相手の強さを認識していた被告人は、あらかじめ用意していた匕首でAの腹部を突き刺し、出血死させた。
あてはめ
被告人は、Aからの呼び出しが喧嘩の端緒であることを事前に察知しながら、自ら進んで対決場所へ向かっている。このように喧嘩闘争となることをあらかじめ予想し、かつこれを甘受して闘争に臨んだ事案においては、たとえ先行してAから殴打を受けたとしても、それは一連の連続的闘争の一場面にすぎない。したがって、客観的に急迫不正の侵害を肯定できず、また主観的にも防衛の意思に基づいた行為とは評価できないため、正当防衛の観念を容れる余地はない。
結論
被告人の行為は、正当防衛にも過剰防衛にも該当しない(傷害致死罪が成立する)。
実務上の射程
「自ら進んで侵害を招いた」という自招侵害の場面や、喧嘩の合意がある場面で正当防衛を否定する際の有力な論拠となる。もっとも、近時の裁判例では喧嘩であっても「予期された侵害」を超える不意打ちや過剰な攻撃がある場合には、急迫性の例外的な肯定や防衛意思の検討を慎重に行う傾向にあるため、本判決の法理は「闘争の全般的な状況」から規範逸脱性を判断する際の枠組みとして用いるべきである。
事件番号: 昭和23(れ)73 / 裁判年月日: 昭和23年7月7日 / 結論: 棄却
一 互に暴行し合ういわゆる喧嘩は、鬪爭者双方が攻撃及び防禦を繰り返す一團の連續的鬪爭行爲であるから、鬪爭の或る瞬間においては、鬪爭者の一方がもつぱら防禦に終止し正當防衞を行う観を呈することがあつても、鬪爭の全般からみては、刑法第三六條の正當防衞の観念を容れる餘地がない場合がある。 二 原判決はその理由において、本件のよ…