一 現行刑事訴訟法における控訴審は覆審であつて、訴訟手續の全部を更新するのであるから、第一審の訴訟手續についてたとえ所論のような違法(辯護人に關する公判調書の誤記及び辯護人に對し公判期日を通知しなかつたこと)があつたとしても、その違法は控訴審の判決に影響を及ぼすものではない。 二 所論のような違法は第一審の訴訟手續を違法ならしめるだけで、その手續の存在を失わしめて無効とするものでないから、所論のように控訴審が第一審となり被告人から三審制の利益を奪うものではない。 三 原判決はその舉示する證據を綜合して、被告人が原判示家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火は天井に燃え移り右家屋の天井板約一尺四方を燒毀した事實を認定しているのであるから、右の事實自體によつて、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が獨立燃燒する程度に達したことが認められるので、原判示の事實は放火既遂罪を構成する事實を充たしたものというべきである。されば、原判決が右の事實に對し刑法第一〇八條を適用して放火既遂罪として處斷したのは相當である。 四 論旨は被告人に利益な情状を述べて原判決の破毀を求めているが、かかる事情の開陳は上告の適法な理由ではないから採用することができない。
一 違法の第一審手續と第二審判決に及ぼす影響 二 第一審手續の違法と三審制 三 放火罪の既遂の時期 四 情状論と上告理由
刑訴法411條,刑訴法410條1號,刑訴法409條,憲法32條,刑法108條,刑法43條
判旨
放火罪における「焼損」とは、火が放火の媒介物を離れて、目的物である建造物が独立して燃焼を継続するに至った状態をいう。
問題の所在(論点)
刑法108条(現住建造物等放火罪)における「焼損」の定義、すなわち既遂と未遂を分かつ基準が問題となる。
規範
刑法108条等の放火罪における既遂時期(焼損)については、火が火種や媒介物(マッチ、新聞紙、衣類等)の段階を脱し、建造物自体が独立して燃焼を継続する状態に達したか否かによって決すべきである(独立燃焼説)。
重要事実
被告人は、家屋の押入内壁紙にマッチで放火した。その結果、火は天井板に燃え移り、天井板の約一尺(約30センチメートル)四方を焼失させるに至った。
あてはめ
本件では、被告人がマッチで壁紙に放火した火が、その後天井にまで燃え移り、天井板という建造物の一部を約一尺四方にわたって焼いている。この事実によれば、火勢は既に点火の媒介物であるマッチや壁紙の範囲を離れ、建造物の主要構造部等の一部である天井板が自ら燃え続ける状態に達したといえる。
結論
本件の事実は放火既遂罪を構成する。したがって、刑法108条を適用して既遂罪とした原判決に違法はない。
実務上の射程
放火罪の既遂時期に関するリーディングケースである。答案上は、可燃性の有無に関わらず「独立燃焼」が開始された時点で既遂となることを明示すべきである。天井板や畳が焦げた程度であっても、独立して燃焼を継続しうる状態であれば既遂となる可能性が高いことを念頭に置く必要がある。
事件番号: 昭和25(れ)373 / 裁判年月日: 昭和25年5月25日 / 結論: 棄却
證人Aの原審における供述豫審における供述記載その他原判決舉示の證據を綜合すれば、A及びその家族の現に居住する本件家屋の一部たる三疉間の床板約一尺四方竝びに押入床板及び上段各約三尺四方を燒燬したる原判示事實の認定を肯認することができる。そして原判決は右のごとき現に人の居住する家屋の一部を判示程度に燒燬したと判示した以上被…