右劇場には、人が寝泊りしていることを被告人が知つていたこと、及び、放火の結果、既に獨立燃燒の程度に達する燒毀のあつたことも、右證據に照してあきらかであるから、原判決が、被告人の右の所爲に對して、刑法第一〇八條の既遂罪をもつて、問擬したのは正當である。
刑法第一〇八條の既遂罪に該る一場合
刑法108條
判旨
人が寝泊りしている建物に接着し、その一部を構成する便所に放火した場合、建物本体に燃え移るよう仕向けたものと認められ、現住建造物等放火罪(刑法108条)の既遂罪が成立する。
問題の所在(論点)
現住建造物である劇場本体ではなく、それに接着する附属の便所に放火した場合に、刑法108条の現住建造物等放火罪が成立するか。また、その既遂時期はいつか。
規範
現住建造物等放火罪(108条)における「建造物」とは、屋根があり壁や柱に支えられた土地の定着物をいう。また、放火の対象が建物本体そのものでなくても、その建物に接着して建設され、構造上および機能上、その一部をなすと認められる附属物(便所等)であれば、これに放火する行為は当該建造物に対する放火に該当する。さらに、火が媒介物を離れて目的物につき、独立して燃焼を継続する状態に達した時点で「焼損」が認められ、既遂となる。
重要事実
被告人は、人が寝泊りしている劇場の東側に接着して建設された便所に火を放った。被告人は紙屑入りの炭俵を当該便所の南側羽目板に立てかけて火をつけ、便所を焼燬する意思を有していた。この便所は、劇場建物の一部をなすものであった。放火の結果、火は独立燃焼の程度に達する状態まで燃え広がった。
あてはめ
まず、本件の便所は、劇場建物の東側に接着して建設されており、検証調書や図面によれば「劇場の構成部分」と認められる。したがって、便所への放火は現住建造物である劇場そのものへの放火と同視できる。次に、被告人は便所に炭俵を立てかけて火を放っており、これは建物全部に燃え移るように仕向けたものと評価できる。そして、証拠によれば放火の結果、既に火が「独立燃焼の程度」に達していたことから、客観的に焼損(既遂)が認められる。被告人は劇場に人が寝泊りしていることも認識していたため、故意も認められる。
結論
被告人の行為は、刑法108条の現住建造物等放火罪の構成要件を充足し、同罪の既遂罪が成立する。
実務上の射程
建物の附属物や一部に対する放火であっても、構造上・機能上の緊密な一体性があれば、建物本体への放火として108条(または109条)が適用されることを示す。実務上は、焼損の有無を「独立燃焼」基準で判断すること、及び建造物の「一部」の解釈において物理的な接続関係を重視する点を確認する際に参照される。
事件番号: 昭和24(れ)1766 / 裁判年月日: 昭和26年1月23日 / 結論: 棄却
一 第二事実の納屋については敢て検証調書添附の写真を俟たなくても全焼したことを推認できる記載がある。それ故原判決はこの点について理由不備はないしかも訊問調書添附の図面等を除いても右供述が独立性がある場合にはこの部分のみを証拠調をしてそれを証拠とすることを妨げないことについては当裁判所の判例とするところであり(昭和二四年…
事件番号: 昭和63(あ)664 / 裁判年月日: 平成元年7月14日 / 結論: 棄却
本殿、拝殿、社務所等の建物が廻廊等により接続され、夜間も神職等が社務所等で宿直していた本件平安神宮社殿は、全体として一個の現住建造物に当たる。