本殿、拝殿、社務所等の建物が廻廊等により接続され、夜間も神職等が社務所等で宿直していた本件平安神宮社殿は、全体として一個の現住建造物に当たる。
複数の建物が廻廊等により接続されていた神宮社殿が一個の現住建造物に当たるとされた事例
刑法108条
判旨
複数の建物が廊下等で接続されている場合、物理的構造および機能的利用状況から一体性が認められれば、その全体が一個の現住建造物にあたると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
刑法108条の「現住建造物」の一個性。複数の建物が廻廊等で接続されている場合、放火された建物(本殿等)に人が現住していなくとも、接続された別個の建物(社務所等)に人が現住していれば、全体として一個の現住建造物と認められるか。
規範
「現住建造物」(刑法108条)の一個性は、物理的側面および機能的側面の双方を総合して判断すべきである。具体的には、①各建物が接続され一部の延焼が全体に及ぶ一体の構造を有しているか(物理的一体性)、②全体が一体として日夜人の起居に利用されているか(機能的一体性)という観点から判断する。
重要事実
被告人は、平安神宮の本殿、祭具庫、西翼舎等に放火した。平安神宮の社殿は、本殿、拝殿、社務所、守衛詰所等、多数の木造建物が廻廊や歩廊で接続され、方形に配置されていた。夜間は神職、守衛、ガードマン計4名が社務所や守衛詰所に宿直・就寝し、各建物を巡回していた。放火された場所と人が就寝する場所は別個の建物名が付されていたが、構造上、放火により社務所等へ延焼する可能性があった。
あてはめ
まず、物理的側面について、各建物は木造の廻廊・歩廊で一周しうるよう接続されており、一部への放火が社務所等へ延焼する可能性が否定できない。したがって、全体に危険が及ぶ一体の構造といえる。次に、機能的側面について、外拝殿等で参拝や祭事が行われる一方、夜間も神職らが社務所等で就寝しつつ全域を巡回しており、全体が一体として日夜人の起居に利用されている。以上より、物理的・機能的両面において全体が一個の現住建造物としての実体を有する。
結論
平安神宮の社殿全体を一個の現住建造物と認め、現住建造物放火罪(刑法108条)の成立を認めるのが相当である。
実務上の射程
物理的接続(廊下・屋根の連続性)と、利用上の不可分性(管理状況・居住形態)の二点から一体性を論じる際のリーディングケースである。特に、広い敷地内に点在する複数の建物群であっても、延焼の危険性と管理の一体性があれば一個の建造物として評価できることを示しており、放火罪の客体の数や罪名の区別を検討する際に重要となる。
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