一 論旨は、被告にの所爲が地方競馬法第一六條に該當するものであつて常習賭博罪を以て問擬すべきでないことを主張している。しかし地方競馬法第一六條と刑法第一八六條第一項との法定刑を比較すると、前者には三年以下の懲役若しくは五千圓以下の罰金に處し、又は其の刑を併科するとあり、後者には三年以下の懲役に處するとあつて、明らかに前者が重いのであるから、論旨は、被告人の不利益に原判決を是正することを求めることとなる。被告人の側からその不利益に原判決の是正を求める主張は、上告理由として不敵法である。 二 地方競馬法第一六條第三號に該る罪は、偶然の輸羸に關し財物を以て賭事を爲す行爲であるから、性質上賭博罪であつて、特別の規定がなければ刑法の賭博罪を以て論ずべきものであるが、同法條は刑法の賭博罪の要件の外に、地方競馬法による競馬の競走に關し、職業として及び多數の者を相手方としたという特別の要件の附け加わつた場合について、その情状に鑑みて特に刑法の賭博罪より重く處罰すべきものとしている。 三 被告人が數回競馬法違反で處罰された事實を資料として賭博の常習性を認定したことは違法ではない。
一 被告人に不利益な主張と上告理由 二 地方競馬法第一六條第三號の罪と賭博罪 三 數回競馬法違反で處罰された事實に基く賭博の常習性認定の當否
地方競馬法16條,地方競馬法16條3號,刑法186條1項,刑法185條
判旨
常習賭博罪(刑法186条1項)における「常習性」の認定に関し、過去の賭博罪としての前科のみならず、性質上賭博行為にあたる特別法違反(地方競馬法違反等)の事実を習癖認定の資料とすることは経験則に反しない。
問題の所在(論点)
刑法186条1項の「常習」性を認定するにあたり、性質を同じくする特別法違反(競馬法違反等)の事実を習癖の判断材料に含めることができるか。
規範
常習賭博罪の「常習」とは、賭博行為を反復して行う習癖をいい、その認定は被告人の前科、犯行の回数・態様等を総合的に考慮して判断される。また、特別法(地方競馬法等)に規定される賭博関連の処罰規定も、本質において賭博行為の性質を有するものであれば、刑法上の賭博の習癖を認定するための有力な資料となり得る。
重要事実
被告人は二日間にわたり、数名の者を相手に競馬の「呑屋」と称する賭博行為を行った。被告人には昭和13年に賭博罪の前科があったほか、昭和6年から18年にかけて、本件と同様の形態で計4回の競馬法違反による処罰歴があった。原判決はこれらの事実を参酌し、被告人に賭博の習癖を認めて常習賭博罪として処断した。これに対し弁護側は、賭博の前科が一件のみで、かつ数年の間隔があることから常習性は認められないと主張し、上告した。
あてはめ
まず、地方競馬法違反(16条3号)等の罪は、本質的に偶然の勝敗に関し財物を賭ける行為であり、性質上は賭博罪である。被告人は賭博罪の前科のみならず、本件と同様の「呑屋」行為により過去4回も競馬法違反で処罰されており、これらはいずれも賭博行為としての性質を有する。長年にわたり同様の行為を反復しているという事実は、被告人に賭博の習癖があることを強く推認させるものであり、これらを資料として習癖を認定した原判決の判断は、経験則に照らして合理的といえる。したがって、前科の間隔があいているとしても、常習性の認定に誤りはない。
結論
被告人の所為を常習賭博罪として処断した原判決に擬律錯誤はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
常習性の認定における「資料の範囲」を示した判例である。答案上では、常習性の定義(反復して賭博を行う習癖)を述べた後、あてはめにおいて「同種の処罰歴(特別法違反を含む)」や「犯行の反復性」を具体的事実として指摘し、習癖の存在を論証する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)1325 / 裁判年月日: 昭和24年2月24日 / 結論: 棄却
刑法第一八六條第一項に所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖のあるものをいう立法趣旨であつて、必ずしも賭博を渡世とする博徒の類のみを指すものではない。又かかる習癖のあるものである以上たといそのものが正業を有しているとしてもその一事を以て直ちにこれを賭博常習者でないとはいい得ないのである。