一 假りに警察の取調が「脅迫強問」にょつて爲されたとしても、その取調の結果を記載した書類は、原判決において證據として採用されてはいないのであるから、そのことは適法な上告理由とはならない。 二 およそ婦女を姦淫する爲の手段として用いた暴行の結果その婦女を死亡させたときは、姦淫行爲の既遂たると未遂たるとを問わず、強姦致死罪が成立し、婦女の死亡後、これを姦するが如き行爲は、右強姦致死罪の成立に何等のかかわりはない。 三 刑法第一九〇條に規定する死體損壞罪は、死體を物理的に損傷、毀壞する場合を云うのであつて、これを姦するが如き行爲を包含しないと解すべきものである。 四 結果的加重犯の場合において、被害者の身體を傷害し、更にこれを死亡させた以上、右傷害の事實は致死の事實に吸收され、重き致死の結果のみに對して成立する結果的加重犯の責任を問うべきものである。從つて、原判決が判示致傷の點について擬律せず、所論の如く、強姦致死罪の規定に問疑したのは、まさに、その然かる所であつて、原判決には毫も擬律錯誤の違法あるを見ない。
一 警察における取調の違法と上告理由 二 強姦行爲の未遂と強姦致死罪の既遂 三 死體損壞罪と死體姦淫 四 強姦により被害者の身體を傷害し更にこれを死亡せしめた場合の擬律
憲法第38條2項,刑訴應急措置法10條2項,刑訴法411條,刑法181條,刑法177條,刑法179條,刑法190條,刑法205條
判旨
強姦の手段としての暴行により婦女を死亡させた場合、姦淫行為の既遂・未遂を問わず強姦致死罪が成立し、死亡後の死姦行為は同罪の成立に影響しない。また、刑法190条の死体損壊罪は死体を物理的に損傷・毀壊する行為を指し、死姦行為はこれに含まれない。
問題の所在(論点)
1. 婦女を死亡させた後の死姦行為が、強姦致死罪の成否や死体損壊罪の成否にどのように影響するか。2. 結果的加重犯において傷害の事実が致死の結果に吸収されるか。3. 遺伝的偏倚性格を有する者の責任能力をいかに判断すべきか。
規範
1. 強姦致死罪(刑法181条)は、強姦の手段たる暴行・脅迫から致死の結果が発生することで成立し、姦淫自体の既遂・未遂を問わない。2. 死体損壊罪(刑法190条)の「損壊」とは、死体を物理的に損傷・毀壊する行為を指し、死姦行為は包含されない。3. 責任能力の判断については、精神鑑定の結果のみならず、生活史、知能程度、犯行態様(意識的・計画的か等)を総合して判断すべきである。
重要事実
被告人は、遺伝的偏倚性格(精神薄弱や性格異常)を有し、性衝動の亢進等の特徴があった。被告人は婦女に対し、姦淫の手段として暴行を加え死亡させたが、その死亡後に死体に対して姦淫行為(死姦)を行った。原審は、被告人の知能が大体正常域にあり、犯行が意識的・計画的であったこと等から、心神喪失・心神耗弱を否定し、強姦致死罪を適用した。これに対し弁護人側が、死姦行為は死体損壊罪に当たるべきであり、また強姦致死の擬律が誤りである等と主張して上告した。
あてはめ
1. 婦女を死亡させた原因が姦淫のための暴行である以上、その後の姦淫の既遂・未遂や死姦の事実は強姦致死罪の成立を妨げない。2. 死体損壊罪については、物理的な損壊を要するため、死姦はこれに該当しないと解するのが相当である。3. 責任能力に関し、鑑定人は自制不可能な程度ではないとしており、被告人の行動が熟慮的・計画的であるという事実関係に照らせば、心神喪失・耗弱を否定した原判断は適法である。4. 被害者を傷害し死に至らしめた場合、傷害は致死に吸収されるため、強姦致死罪のみを適用した判断は正当である。
結論
強姦致死罪の成立を認め、死姦行為について死体損壊罪の成立を否定した原判決に誤りはない。また、責任能力の否定及び罪数判断についても妥当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
強姦致死(現:強制性交等致死)における致死結果と性交行為の前後関係や、死体損壊罪の「損壊」の意義(物理的損壊限定)を論述する際の基礎となる判例である。また、精神障害等の事情がある場合の責任能力判断において、生物学的要素だけでなく犯行時の態様等の心理学的要素を総合考慮する実務の先駆けといえる。
事件番号: 昭和27(あ)2403 / 裁判年月日: 昭和28年6月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強姦致傷罪(現:強制性交等致死傷罪)における傷害の結果は、姦淫行為そのものから生じた場合に限らず、その手段である暴行によって生じた場合であっても、同罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人AおよびBは、被害者に対して姦淫を試みた。その際、姦淫行為そのものによって負傷させたのではなく、姦淫を遂行する…
事件番号: 昭和40(あ)1573 / 裁判年月日: 昭和41年4月8日 / 結論: 棄却
野外において人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後その現場で、被害者が身につけていた腕時計を奪取する行為は、窃盗罪を構成する。