野外において人を殺害した後、領得の意思を生じ、右犯行直後その現場で、被害者が身につけていた腕時計を奪取する行為は、窃盗罪を構成する。
人を殺害した後被害者が身につけていた財物を奪取した行為が窃盗罪にあたるとされた事例
刑法235条
判旨
死者から財物を奪取した場合において、被害者が生前有していた占有は死亡直後もなお継続して保護されるべきであり、自己の殺害行為を利用して財物を奪取したときは、窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
死者の占有の成否。殺害後に領得の意思が生じた場合において、死者から財物を奪取する行為が、窃盗罪(刑法235条)と占有離脱物横領罪(刑法254条)のいずれを構成するか。
規範
財物奪取の意思が死亡後に生じた場合であっても、被害者が生前有していた財物の所持は、死亡直後においてもなお継続して保護するのが法の目的にかなう。したがって、被害者から財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取したときは、一連の行為を全体的に考察し、他人の財物に対する所持を侵害したものとして窃盗罪を構成する。
重要事実
被告人は、野外において当初から財物を領得する意思はなく被害者を殺害した。しかし、殺害の犯行直後、その現場において、殺害した被害者が身につけていた時計を奪取する意思が生じ、これを奪い取った。弁護人は、死亡により占有が消滅しているため、占有離脱物横領罪にとどまると主張した。
あてはめ
被告人は野外で被害者を殺害しており、その直後に現場で時計を奪取している。この奪取行為は、自らの殺害行為によって被害者の占有を離脱させた状態を利用したものであるといえる。このような時間的・場所的近接性がある状況下では、被害者の生前の占有は死亡直後もなお法的保護の対象となり、被告人の行為は全体として他人の占有を侵害したものと評価される。
結論
被告人の行為は占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪を構成する。
実務上の射程
本判決は「死者の占有」を肯定する代表的な判例である。答案上は、(1)被害者の死亡と時間的・場所的に近接していること、(2)犯人が自ら占有を離脱させたこと、の2点に留意して窃盗罪の成否を論じる際に用いる。あくまで犯人との関係で相対的に占有を肯定する理論であるため、第三者が持ち去った場合には占有離脱物横領罪となる点に注意が必要である。
事件番号: 昭和35(あ)1041 / 裁判年月日: 昭和37年3月16日 / 結論: 棄却
被害者が電車道寄りの歩道端に在つた塵箱の上に革製シヨルダーバツク(カメラ等在中)とカメラの三脚とを置いて右塵箱から約七米離れた店舗内に入り表戸を開けたまま短時間(約五分間)店内にとどまつていたにすぎない場合には、右シヨルダーバツクは被害者の占有を離れたものとはいえない。
事件番号: 昭和23(れ)584 / 裁判年月日: 昭和23年11月16日 / 結論: 棄却
一 假りに警察の取調が「脅迫強問」にょつて爲されたとしても、その取調の結果を記載した書類は、原判決において證據として採用されてはいないのであるから、そのことは適法な上告理由とはならない。 二 およそ婦女を姦淫する爲の手段として用いた暴行の結果その婦女を死亡させたときは、姦淫行爲の既遂たると未遂たるとを問わず、強姦致死罪…
事件番号: 昭和24(れ)1986 / 裁判年月日: 昭和24年11月26日 / 結論: 棄却
一 論旨は被告人の所爲は殺意を以て行われたと認むべき證明がないから傷害致死罪を以て處斷すべきものであるというのである。しかし原刑決は被告人の殺意の點を「凶器の種類、攻撃の個所、回數並びに傷害の部位程度に徴し」て認定しているのである。然らば原判決がこの證據と原判示他の證據とを綜合して判示事實が刑法一九九條殺人罪に該當する…
事件番号: 昭和58(あ)581 / 裁判年月日: 平成2年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択に際しては、犯行の態様、動機、殺害方法の執拗性・残虐性、被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、被告人の前科、犯行後の情状等、一切の事情を総合的に考慮し、その罪責が極めて重いと認められる場合に許容される。 第1 事案の概要:被告人は、農作業中の主婦を強姦目的で襲い、抵抗されたため頸部を強…