一 刑法第一七七條は暴行又は脅迫を以つて婦女を姦淫した者は、強姦の罪として處罰するを規定し、次に同法第一七八條において、人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又はこれをして心神を喪失せしめ、若しくは抗拒不能ならしめて姦淫したる者についても、前條の例による旨を規定している。かかる法條の排列から見れば、苟しくも暴行又は脅迫を以つて婦女を姦淫した者は、前條に該當するのであつて從つてその暴行又は脅迫によつて、婦女をして心神を喪失せしめ、若しくは抗拒不能ならしめて姦淫した者も、また當然これに包含せられるものと解すべきである。 二 強姦致死罪は單一な刑法第一八一條の犯罪を構成するものであつて、強姦の點が未遂であるかどうか及びその未遂が中止未遂であるか障礙未遂であるかということは、單に情状の問題にすぎないのであつて、處斷刑に變更を來たすべき性質のものではにから、本罪に對しては刑法第一八一條を適用すれば足り、未遂減輕に關する同法第四三條本文又は但書を適用すべきものではない。 三 犯罪の実行に着手した後、驚愕によつて犯行を中止した場合においても、その驚愕の原因となつた諸般の状況が、被告人の犯意の遂行を思い止まらしめる障碍の事情として客観性のあるものと認められるときは、障碍未遂であつて中止未遂ではない。 四 致死罪において、甲鑑定人の窒息死と認めるという鑑定の結果と乙鑑定人の窒息死と認めるのが蓋然性が最も多いという鑑定の結果とを、他の証拠と綜合して被害者の死因を窒素死と認定しても、理由齟齬の違法があるとはいえない。 五 被告人が原審において從來の自白を飜し、右は被告人の眞意に出たものではないと辯解した場合に、右自白の任意性並びに眞實性について如何なる範圍において取調を行い、その供述のいづれを措信するかは凡て事實審たる原審の自由な判斷に委ねられているところである。
一 暴行又は脅迫を以つて婦女の心神を喪失させ若しくは抗拒不能に爲して姦淫した行為の擬律 二 強姦の點が未遂に終つた強姦致死罪の擬律 三 驚愕によつて犯行を中止した場合と中止未遂 四 死因の確実性につき程度の差のある鑑定の結果を綜合して死因を確定することの適否 五 原審において從來の自白を飜した場合における同自白の任意性及び眞實性の有無と裁判所の自由裁量
刑法177条,刑法178条,刑法43条,刑法181条,刑法179条,旧刑訴法337条,旧刑訴法410条19号,憲法38条3項,旧刑訴法337条
判旨
強姦の実行中に予期せぬ外部事情による驚愕から犯行を中止した場合、その事情が客観的に遂行の障礙となるものであれば中止未遂(刑法43条但書)には当たらない。また、強姦致死罪は単一の犯罪(刑法181条)であり、強姦が未遂であっても未遂減軽規定(43条)を適用する必要はない。
問題の所在(論点)
1. 予期せぬ照明や出血への驚愕を動機とする犯行中止が、中止未遂(刑法43条但書)にあたるか、あるいは障礙未遂(同条本文)にあたるか。 2. 強姦致死罪において、強姦が未遂である場合に未遂減軽規定(刑法43条)を適用すべきか。
事件番号: 昭和23(れ)584 / 裁判年月日: 昭和23年11月16日 / 結論: 棄却
一 假りに警察の取調が「脅迫強問」にょつて爲されたとしても、その取調の結果を記載した書類は、原判決において證據として採用されてはいないのであるから、そのことは適法な上告理由とはならない。 二 およそ婦女を姦淫する爲の手段として用いた暴行の結果その婦女を死亡させたときは、姦淫行爲の既遂たると未遂たるとを問わず、強姦致死罪…
規範
刑法43条但書の中止未遂が認められるためには、自己の意思により犯罪を中止したことを要する。外部的・客観的な事情によって犯行の遂行が困難または不可能となったことが原因で中止した場合は、単なる障礙未遂(同条本文)にあたる。また、強姦致死罪は強姦の手段たる暴行等から死の結果が発生したことで成立する単一の罪であり、強姦行為の既遂・未遂を問わず、同条に定められた刑を適用すべきであって、未遂減軽の余地はない。
重要事実
被告人は、被害者の頸部を絞めて人事不省に陥らせた後、墓地にて強姦しようとした。しかし、性交経験がなかった被告人は容易に目的を達せず焦慮していた際、突然駅に停車した電車の前燈に照らされ、被害者の陰部から流れる血が自らの手に付着しているのを見て驚愕し、犯行を中止した。その後、被害者は最初の頸部絞扼により死亡した。
あてはめ
1. 被告人が犯行を中止した動機は、突然の電車による照明と、被害者の出血を目撃したことによる驚愕にある。これらの事情は、犯行現場が露見する危険や、性交経験のない被告人にとって心理的障礙となる客観的事情といえる。したがって、これは単なる反省悔悟に基づく自己の意思による中止ではなく、客観的な障礙による中止であると解される。 2. 強姦致死罪は、強姦の機会に死の結果を招いたことを処罰する独立の類型である。強姦それ自体が未遂であっても、致死の結果が発生している以上、刑法181条の法定刑をそのまま適用すべきであり、刑法43条を重ねて適用する性質のものではない。
結論
1. 本件は中止未遂ではなく障礙未遂にあたる。 2. 強姦致死罪には未遂減軽(刑法43条)は適用されない。
実務上の射程
中止未遂における「自己の意思により」の判断において、主観的な驚愕であってもその原因に客観的な外部的事情が介在する場合は障礙未遂とされる実務上の基準を示している。また、結果的加重犯(致死罪)における基本犯の未遂減軽の否定という確立した法理を確認する際にも用いられる。
事件番号: 昭和27(あ)6389 / 裁判年月日: 昭和29年4月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】強姦致死罪における強姦行為には、強姦の実行に着手したが遂げなかった場合も含まれ、その未遂行為から致死の結果が生じた場合も強姦致死罪が成立する。 第1 事案の概要:本件において、被告人は被害者に対し強姦しようとして暴行を加えたが、姦淫するに至らなかった(未遂)。しかし、その際に行われた暴行によって、…