一 朝鮮人は、連合國人に屬せず、日本在住の朝鮮人は日本刑法の適用を受け、日本の裁判權に服するものであることは、昭和二一年六月一三日、勅令第三一一號及び一九四六年一月三一日附連合國最高司令部發日本帝國政府宛「連合國、中立國及ビ敵國ノ定義ニ關スル覺書」並びに刑法第一條第八條の趣旨に徴し明瞭である。 二 朝鮮人に對する日本の裁判權に關する準據法規を特に判決に表示することは、刑事訴訟法の要求せざるところである。 三 犯罪の動機は、刑事訴訟法第三六〇條にいわゆる「罪トナルベキ事實」に該當しないのであるから、特に、これを判決に記載しないからといつて、判決を違法ならしむるものとはいえない。 四 その事由は、Aは勾留されてから七〇餘日の後にしたものであり、Bは勾留されてから、僅かに一〇日後にしたものである。しかして、本件は共犯者數名あり、公訴事實も相當に複雜であるのみならず、被告人の中には保釋中に再び犯罪をおかして、追起訴せられたものもあり、事件は更に錯雜を加えたのであつて、一〇日前後の拘禁はもとより、七〇餘日の拘禁といえども、本件諸般の事情からみて不當に長い拘禁とはいえないのであるから、右A及びBの第一審における自白はいづれも「不當に長い拘禁後の自白」にはあたらないのである。 五 原判決がその證據とした原審公判廷における自白も、要するに、右第一審における自白をくり返したものに過ぎないのであつて、長い拘禁がもととなつて、若しくは長い拘禁に影響されて自白をするに至つたというわけではないのである。ことばをかえていえば、特別の事情のみられない本件においては、右の長い拘禁と原判決が證據とした自白との間には、因果關係のないことがあきらかな場合と解するのが相當である。かくの如き場合には、これを憲法第三八條第二項にいわゆる不當に長く拘禁された後の自白に該當しないものとすることは既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年六月三〇日言渡、昭和二二年(れ)第二七一號大法廷判決)。
一 在日朝鮮人に對する日本の裁判權 二 朝鮮人に對する日本の裁判權に關する準據法規判示の要否 三 犯罪の動機判示の要否 四 憲法第三八條第二項にいわゆる不當に長く拘禁された後の自白に該らぬ場合 五 拘禁と自白との間に因果關係のないことが明らかな場合と憲法第三八條第二項
昭和21年勅令311號,1945年1月31日附連合國最高司令部發日本帝國政府宛「連合國、中立國及ビ敵國ノ定義ニ關スル覺書」,刑法1條,刑法8條,刑訴法360條1項,憲法38條2項,刑訴應急措置法10條2項
判旨
憲法38条2項にいう「不当に長い拘禁後の自白」とは、身柄拘束期間と自白の間に因果関係が認められる場合を指す。事件が複雑で共犯者が存在するなどの事情があれば、70余日の拘禁であっても直ちに不当に長い拘禁とはいえず、自白の証拠能力は否定されない。
問題の所在(論点)
憲法38条2項、刑事訴訟法319条1項にいう「不当に長い拘禁」の意義、および身柄拘束期間と自白との間の因果関係の要否が問題となる。
規範
憲法38条2項が「不当に長い拘禁」後の自白の証拠能力を否定する趣旨は、長期の抑留・拘禁による精神的・肉体的苦痛から生じる虚偽自白を排除する点にある。したがって、不当に長い拘禁といえるかは、事件の複雑性や共犯者の有無等の諸般の事情を総合して判断すべきである。また、たとえ拘禁が長期にわたる場合であっても、その拘禁と自白との間に因果関係が認められないときは、同項の適用を受けない。
重要事実
被告人A、Bらは、共犯者が数名存在し、かつ保釈中の再犯による追起訴が重なるなど複雑な事実関係にある事件(公訴事実は判決文からは不明)について起訴された。被告人Aは勾留から70余日後、被告人Bは10日後に第一審で犯行を自白した。原審(控訴審)は、さらに長期間の拘禁を経た後の公判における自白を証拠として採用したが、これは第一審での自白を繰り返したものであった。
あてはめ
本件は、共犯者が複数存在し、公訴事実も相当に複雑である上、被告人の一部が保釈中に再犯を犯して追起訴されるなど錯雑した事情があった。このような諸般の事情に照らせば、10日前後はもとより、70余日の拘禁であっても不当に長い拘禁とはいえない。また、原審での自白は、不当に長いとはいえない第一審時点の自白を反復したに過ぎない。したがって、特別な事情がない限り、長期の拘禁と自白との間に因果関係は認められず、虚偽自白を誘発する状況にあったとは評価できない。
結論
本件自白は「不当に長い拘禁後の自白」には該当せず、証拠能力が認められる。上告棄却。
実務上の射程
自白の証拠能力が争われる際、拘禁期間の長さという形式的側面だけでなく、事件の難易度や因果関係という実質的側面から反論を構成する際に用いる。実務上は、38条2項の適用が検討される場面において、自白の任意性を支える間接事実(事件の複雑性等)を評価する際の判断指標となる。
事件番号: 昭和23(れ)718 / 裁判年月日: 昭和23年12月1日 / 結論: 棄却
一 當該公判廷における自白は刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる自白に包含せられないことは當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年七月二九日言渡、同年(れ)第一六八號大法廷事件判決) 二 被告人は警察および檢察廳の取調べ以來本件犯行を自白し、つづいて被告人の勾留後約五〇日で開かれた第一審公判においても、同様自白…
事件番号: 昭和23(れ)1462 / 裁判年月日: 昭和24年10月5日 / 結論: 破棄自判
一 憲法第三八條第二項及刑訴應急措置法第一〇條第二項の不當に長い抑留又は拘禁というのは抑留又は拘禁の期間が不當に長い場合をいうのであつて抑留又は拘禁が不當であることをいうものではない。從つて論旨にいうように勾留が不當であるということだけでは自白を證據能力なきものにするものではなくなお公判廷における自白は右各法條の第三項…
事件番号: 昭和24(れ)1090 / 裁判年月日: 昭和24年8月18日 / 結論: 棄却
一九四六年二月一九日附朝鮮人その他の國人に對し科せらた判決の再審査に關する覺書に從い被告人等は日本裁判所の確定判決について連合國最高司令官又は第八軍司令官に對し、再審査を請求する權利のあることは所論のとおりであるが原判決言渡しの際被告人等に對し、その請求權のあることを告知すべき義務を原審に負擔せしめる趣旨の規定は前示覺…
事件番号: 昭和22(れ)332 / 裁判年月日: 昭和23年7月14日 / 結論: 棄却
一 犯罪事實は、強盜殺人、死體遺棄、恐喝、強盜及び窃盜という各種の犯行に亘り、共犯者は常に四名、九名、一三名という多數にのぼり、該共犯者の中には英占領軍兵士五名乃至七名が加擔しており又被害者の中には朝鮮人も含まれており、罪質は重く事件としては非常に複雜を極めているものと認めなければならない。從つて、その取調及び審理に甚…