一 博奕(ばくち)という言葉が、博戯の俗語であることは、顯著の事實であるし「本件賭博行爲を爲した事跡に徴して」と説示しているところから見ても、原判決においては、所論の「賭錢博奕」の語を金錢を賭してする博戯即ち刑法第一八五條同第一八六條にいわゆる博戯の義に用いているものであることは明白である。されば原判決には所論のように刑法の定めていない「博奕」という行爲を處罰したという違法はない。 二 原判決において「花札を使用し俗に「三枚」と稱する賭錢博奕を爲したものである」と判示している以上、たとえ三枚という博戯の方法内容を詳述しなくとも花札を使用し偶然のゆえいに關し財物の得喪を爭つたものであることを判示したものであることは、自ら明らかであるから、原判決には所論のような罪となるべき事實についての説明を缺いたという理由不備の違法あるものとはいえない。 三 賭博の常習というのは賭博を反覆累行する習癖ある者を指すのであるさればかかる習癖の認められる以上假に所論のように被告人の前科である賭博が「バカ」又は「後先」であつて、本件賭博が「三枚」であり本件賭博は最後の前科のときから九ケ月を經た後のものであり、被告人が靴修繕業に從事している者であるとしても、被告人を賭博常習者と認定するに何等妨ぐるところではない。そして、原判決において常習の點について摘示した前科の事實からして、原判決が被告人を賭博常習者と認定したからといつて、何等實驗法則に反したかどはない。
一 「賭錢博奕」の意義 二 博戯の方法を判示する程度 三 常習賭博の認定と實驗則
刑法185條,刑法186條,刑訴法360條1項
判旨
常習賭博罪における「常習」とは、賭博を反覆累行する習癖があることを指し、前科と本件とで賭博の種類が異なり、一定の期間が経過していても、習癖が認められる限り常習性を肯定できる。
問題の所在(論点)
刑法186条1項の「常習」性の認定において、前科と本件の賭博の種類が異なる場合や、一定の期間が経過している場合でも、賭博の習癖を認めることができるか。
規範
刑法186条1項の「常習」とは、賭博を反覆累行する習癖をいう。常習性の判断にあたっては、賭博の回数や期間のみならず、前科の有無、賭博の態様、職業等の諸事情を総合的に考慮し、行為者の習癖が認められるか否かによって決する。賭博の種類が同一であることや、時間的近接性が継続していることまでは必ずしも要しない。
重要事実
被告人は、花札を使用し、俗に「三枚」と称する賭銭博奕を行ったとして常習賭博罪で起訴された。被告人には過去に「バカ」または「後先」と称される賭博の前科があった。弁護人は、①本件は前科とは異なる種類の賭博であること、②最後の刑から9ヶ月が経過していること、③被告人が靴修繕業という正業に従事していることを挙げ、常習性を否定すべきと主張した。
あてはめ
まず、被告人には賭博の前科が存在し、反覆して賭博を行う傾向があったことが認められる。本件において、前科の賭博(バカ、後先)と今回の賭博(三枚)の種類が異なっていたとしても、それらは等しく「金銭を賭してする博戯」であり、賭博を行う習癖の現れであることに変わりはない。また、前回の犯行から9ヶ月の期間が経過し、かつ被告人が靴修繕業に従事していたとしても、それらの事実は一度形成された賭博の習癖が消滅したことを直ちに意味するものではない。したがって、前科の事実等を総合すれば、被告人には賭博を反覆累行する習癖が認められ、常習性があるといえる。
結論
賭博の種類が異なり、正業に従事していても、賭博を反覆累行する習癖が認められる以上、常習賭博罪が成立する。
実務上の射程
常習賭博罪の「常習性」の認定基準を示したリーディングケース。答案では「常習性=習癖」と定義した上で、種類の一致や時間的連続性が厳格に求められないことを論述する際に用いる。事実認定において、前科の種類や間隔が不利な事情であっても、習癖という観点から一貫性を説明するロジックとして有効である。
事件番号: 昭和23(れ)643 / 裁判年月日: 昭和23年10月7日 / 結論: 棄却
一 本件賭博は假りに所論の縷述するような賭金の少額なこと等の事情があるとしても、骨牌を使用し偶然のゆえいに關し金錢の得喪を爭つたものであることは、判文上明らかなところであつて、單に一時の娯樂のためにしたもので罪となるべきものではないとはいえない。 二 賭博の常習者として二回までも處罰された者がさらに犯した賭博であるとし…