一 所謂賭博常習者とは、賭博を反覆累行する習癖あるものをいうのであつて、必ずしも博徒又は遊人の類のみを指稱するものではない。 二 被告人が賭博罪で八幡濱區裁判所で、昭和一八年四月一六日罰金六〇圓に、同年一一月六日罰金一五〇圓に、昭和二一年二月二三日罰金八〇〇圓に各處せられ、更に昭和二二年八月二七日本件賭博罪を犯したという事跡に鑑み、被告人を賭博常習者と認定しても、經驗則に反しない。 三 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、構成その他において偏頗の惧なき裁判所の裁判を意味するのであつて、具體的事件につき、直接裁判の内容そのものの公平を保障したものと解すべきではない。 四 共同被告人に対する裁判が、各被告人相互の関係において、かりに、事実の認定又は量刑上権衡を失し不公平な結果を来たすことがあるとしても、その裁判を憲法第三七条第一項に違反するものとはいえない。 五 刑訴法第三六〇條第二項にいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スヘキ原由タル事實上の主張」とは、犯罪構成要件に關しない事實でしかもその存在が法律上當然に犯罪の成立を阻却すべきものを主張することを意味し、犯罪構成要件である事實そのものに關する法律上の見解を陳述することは、これに該當しない。
一 所謂賭博常習者の意義 二 賭博の前科と常習賭博の認定 三 憲法第三七條第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」 四 共同被告人相互間に不公平な結果を来たす判決と憲法第三七条第一項 五 刑訴法第三六〇條第二項のいわゆる「法律上犯罪ノ成立ヲ阻却スベキ原由タル事實上ノ主張」
刑法186條1項,憲法37條1項,刑訴法360條2項,刑訴法410條20號
判旨
常習賭博罪における常習性とは、賭博を反復累行する習癖を指し、前科の度数や時間的間隔等の諸事情を総合して判断される。また、共同被告人間で認定に差が生じても、直ちに公平な裁判を受ける権利(憲法37条1項)に違反するものではない。
問題の所在(論点)
1. 刑法186条1項の「常習」の意義およびその認定基準。2. 共同被告人間で常習性の認定に差異が生じることが、憲法37条1項にいう「公平な裁判所の裁判」に違反するか。
規範
「常習」とは、賭博を反復累行する習癖があることをいう。その認定にあたっては、必ずしも博徒等の属性を必要とせず、前科の回数、犯行の時間的間隔、犯行の態様など諸般の事情を総合的に衡量して判断すべきである。また、憲法37条1項の「公平な裁判所」とは、構成等に偏頗のない裁判所を指し、具体的事件における裁判内容の絶対的な衡平までを保障するものではない。
重要事実
被告人は、昭和18年4月、同年11月、昭和21年2月の計3回、賭博罪により罰金刑に処せられた前科があった。その後、昭和22年8月に本件賭博行為に及んだため、常習賭博罪で起訴された。これに対し被告人側は、前科の回数が一度しか違わない共同被告人が単純賭博罪とされたこととの対比から、被告人のみを常習者と認定することは不公平であり、実験法則に反すると主張して上告した。
あてはめ
被告人は、約4年余りの比較的短期間に3回の賭博前科を重ねており、前回の処罰から約1年半という時間的近接性をもって本件犯行に及んでいる。このような事跡に鑑みれば、被告人には賭博を反復累行する習癖があると推断するのが相当である。共同被告人との差異については、各人の全貌を衡量した結果であり、基礎となる諸事情が同一でない以上、認定の基準が一貫性を欠くとはいえない。また、具体的裁判の内容に不均衡があったとしても、裁判所の構成自体に偏頗がない限り、憲法違反の問題は生じない。
結論
被告人を賭博常習者と認定した原判決に違法はなく、常習賭博罪の成立を認めるべきである。本件上告は棄却される。
実務上の射程
常習性の認定において「前科の回数と時間的間隔」が極めて重要な考慮要素であることを示している。答案上は、本罪の身分犯的性格(責任の加重)を念頭に、習癖の有無を客観的事実から認定する際のモデルとして活用できる。また、憲法37条1項の意義について、制度的保障としての側面に限定する解釈の論拠としても有用である。
事件番号: 昭和25(あ)330 / 裁判年月日: 昭和25年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賭博の常習性の認定は、必ずしも比較的短期間における数次の前科のみを根拠とする必要はなく、前科の存在や短期間内の反復といった諸要素を総合して判断することができる。 第1 事案の概要:被告人が賭博罪に問われた事案において、過去に賭博罪による処罰歴(前科)が存在し、かつ今回も賭博行為に及んだという事実が…