一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文の規定による被告人の訊問請求がない場合、裁判所は現實に訊問の機會を被告人に與えなければ、供述録取書類又はこれに代わる書類を證據とすることができないと解すべきではない。かく解することは憲法第三七條の法意に反するものではない。 二 裁判所が、刑訴應急措置法第一二條の供述者又は作成者の訊問を請求する權利のあることを被告人に知らせることは、法律上の義務ではない。 三 押收にかかる物件を、犯罪の證據とすためには、これを被告人に示し意見辯解を聞いて證據調をすることが必要であるけれども、押收物件を犯罪の用に供したものとして沒收するがためには、その物件について證據調をする必要はない。 四 押收物件を犯罪の用に供したものとして沒收する場合には、その物件が犯罪の用に供せられたという證據を特に判決に舉示する必要はない
一 刑訴應急措置法第一二條第一項本文の規定による被告人の訊問請求がない場合の供述録取書類の證據能力――憲法第三七條との關係 二 刑訴應急措置法第一二條第一項本文の規定による被告人の訊問請求權と裁判所の告知義務 三 押收物件を沒收する場合における右物件の證據調の要否 四 押收物件を犯罪供用物件として沒收する場合の證據舉示の要否
刑訴應急措置法12條1項,憲法37條1項,憲法37条2項,刑法19条1項2號,刑訴法341條1項,刑訴法345條2項,刑訴法410條13號,刑訴法360條1項
判旨
被告人の請求がない場合、裁判所は供述録取書等の供述者に対し現実に訊問の機会を与えずとも、当該書類を証拠とすることができる。また、裁判所が被告人に対し訊問を請求できる権利の存在を告知することは法律上の義務ではない。
問題の所在(論点)
被告人が供述録取書等の供述者に対する訊問を請求しなかった場合、裁判所は現実に訊問の機会を与えずに当該書類を証拠とすることができるか。また、被告人に対し訊問請求権の存在を告知する義務を裁判所は負うか。
規範
日本国憲法第37条2項の証人審問権の保障の下においても、旧刑訴応急措置法第12条(現行刑訴法321条等参照)に基づき、被告人からの請求がない限り、裁判所が供述者に対する訊問の機会を積極的に与える義務はない。また、当該請求権の存在を公判において被告人に知らせることも、裁判所の法律上の義務とは解されない。
重要事実
被告人が傷害事件等で起訴された際、原審において証人Aの司法警察員面前調書および医師B作成の診断書が証拠として採用された。裁判長は証拠調に際し、書類の要旨を告知して意見・弁解を求め、利益となる証拠の提出機会を与えたが、供述者等を訊問する権利があることの告知や、訊問の機会の積極的な供与は行わなかった。弁護人は、これが憲法37条の証人審問権および当事者対等の原則に反すると主張して上告した。
あてはめ
憲法37条2項は証人審問の機会を保障しているが、法律(刑訴応急措置法12条)は「被告人の請求があるとき」に訊問の機会を与えるべきものと定めている。本件において、被告人からの具体的な訊問請求はなされていない。裁判所が権利の存在を教示することは親切で望ましいことではあるが、法文上、被告人の請求を待って機会を与えれば憲法上の要請は充足される。したがって、請求がない以上、訊問を経ずに証拠採用した手続に違憲・違法はない。
結論
被告人の請求がない限り、訊問の機会を与えず供述書類を証拠とすることは憲法37条に反しない。また、権利の告知も義務ではないため、原判決に違法はなく、上告は棄却される。
実務上の射程
伝聞例外(刑訴法321条以下)の前提となる証人審問権の放棄(同意)の法理に関する初期判例である。現代の刑事訴訟実務においても、証拠同意の手続や証人尋問権の行使が被告人の申立てを端緒とする構造を維持する根拠となる。ただし、没収対象物の証拠調については、犯罪事実の認定に関わらない限り不要とする判示も含むが、現代実務では手続的正義の観点から慎重な検討を要する。
事件番号: 昭和26(れ)203 / 裁判年月日: 昭和26年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人側が証人尋問の申請をせず、適法な証拠調べ手続を経た供述書等の証拠採用については、憲法違反や手続上の違法を構成しない。 第1 事案の概要:被告人が起訴された事件において、原審(控訴審等)は関係者AおよびBの聴取書(供述書)を証拠として採用した。これに対し、被告人側は当該書類を証拠としたことは刑…