裁判所は、正當防衞の事實を認めないときは、當事者の主張がない限り、これに關する判斷を判決に示す必要はない。
正當防衞の判斷の判示の要否
刑法36條,刑訴法360條2項
判旨
正当防衛が成立するためには、急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為であることを要する。また、被告人側から正当防衛の主張が全くなされていない場合には、裁判所がこれについて判断を示さなくても違法ではない。
問題の所在(論点)
被告人の行為に正当防衛(刑法36条1項)が成立するか。また、公判で主張されていない正当防衛の点について、裁判所が判断を示さなかったことに違法があるか。
規範
正当防衛(刑法36条1項)が成立するためには、①急迫不正の侵害に対し、②自己又は他人の権利を防衛するため、③やむを得ずにした行為であることが必要である。また、手続上、被告人又は弁護人が正当防衛の主張を何ら行っていない場合には、裁判所にこれに対する判断義務は生じない。
重要事実
被告人は、被害者Aを殴打して怪我を負わせる傷害行為に及び、またB方にて酩酊中に手術跡を見せて脅迫し、飲食代の支払いを免れる恐喝行為等を行ったとして起訴された。上告審において、被告人側は、Aから殴られた事実があるため被告人の行為は正当防衛であること、及び恐喝については無意識的であった旨を主張し、原判決の事実誤認を訴えた。しかし、原審(第2審)までの公判段階では、正当防衛の主張は一切なされていなかった。
あてはめ
傷害の事実について、原判決は「急迫不正の侵害に対し、自己又は他人の権利を防衛するため己むを得ずして為した」という事実を認定していない。また、原審の公判調書によれば、被告人および弁護人のいずれからも、本件行為が正当防衛に該当する旨の主張は全く提出されていなかった。したがって、原判決が正当防衛の成否について何ら判断を示さなかったことは、適法な手続に則ったものとして当然である。恐喝の点についても、原判決の証拠によれば意識的な犯行であることが十分に認められ、事実誤認や審理不尽の違法は存在しない。
結論
被告人の行為に正当防衛は成立せず、また、主張のない正当防衛について判断を示さなかった原判決に違法はないとして、上告を棄却した。
実務上の射程
正当防衛の基本要件を確認するとともに、被告人側から主張のない事実について裁判所に判断義務がないことを示した裁判例である。実務上、事実誤認の主張が上告理由とならない等の手続的限界を示す際にも参照される。
事件番号: 昭和26(れ)463 / 裁判年月日: 昭和26年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が原審で主張していない場合であっても、原判決が認定した事実関係に照らして正当防衛(刑法36条1項)や過剰防衛(同条2項)の成立が明らかに否定される場合には、これらの規定を適用しないことに違法はない。 第1 事案の概要:被告人は刑事裁判の原審において、正当防衛または過剰防衛の主張を行っていなか…