一 所論憲法第三二條は、何人も裁判所において裁判を受ける權利であることを規定したに過ぎないもので、如何なる裁判所において、裁判を受くべきかの裁判所の組織、權限等については、すべて法律において諸般の事情を勘案して決定すべき立法政策の問題であつて、憲法には第九一條を除くの外特にこれを制限する何等の規定も存しない。從つて三審制を採用する裁判制度において、上告審を純然たる法律審すなわち法令違反を理由とするときに限り上告を爲すことを得るものとするか、又は法令違反の外に量刑不當乃至事實誤認の上告理由をも認めて事實審理をも行うものとするかは、立法を以て適當に決定すべき事項に屬する。されば舊憲法時代の訴訟手續において刑訴法第四一二條の規定により量刑不當の上告理由を許していたにかかわらず、刑訴應急措置法第一三條第二項の規定において右刑訴法の規定を適用しないものと規定しからと云つてその規定を目して右憲法規定の違反なりとする所論は當を得ない。(昭和二二年(れ)第五六號同二三年二月六日宣告大法廷判決參照)。 二 憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」とは刑罰そのものが人道上残酷と認められる刑罰を意味し、法定刑の種類の選擇又は範圍の量定の不當を指すものではない(昭和二二年(れ)第三二三號同二三年六月二三日宣告大法廷判決參照)。 三 食糧管理法はその主要な目的手段として國民全体の食生活を安定確保するため、食糧生産者から余剰食糧を供出せしめ一般消費者にでき得る限り多く分配せんとするものであるから、國民食糧生産者は、この法律によつて直接その生命又は生活を害せられることなく、また一般消費者はこの法律によつて寧ろその生命又は生活を保障せられるのであるから、所論のごとく憲法の保障する國民の生存權を否定するものではなく、寧ろこれを保護するものである。また、同法並びにその附屬法令は、第二次的手段として、主要食糧の讓渡又は移動等を一般的に禁止又は制限し若しくは配給量につき一定の限度を設け得るものとしたが同時にその讓渡、移動等については許可を認め配給については増配給食等の特別配給の方法をも認めているからこの點からしても所論のごとく同法をもつて合理性を欠き又は社會の現實に合はない國民のひとしく守り得ない。結局國民の生存權を否定する法令であると云うことはできない。(昭和二三年(れ)第二〇五號同年九月二九日宣告大法廷判決參照)。
一 刑訴應急措置法第一三條第二項と憲法第三二條 二 憲法第三六條にいわゆる「残虐な刑罰」 三 食糧管理法の目的と國民の生存權
憲法32條,憲法81條,憲法36條,憲法25條1項,刑訴應急措置法13條2項,舊刑訴法412條,舊刑訴法414條,食糧管理法1條
判旨
食糧管理法による食糧の配給・譲渡等の制限は、国民全体の食生活を安定確保するという公共の福祉を目的とするものであり、憲法25条の生存権を否定するものではない。
問題の所在(論点)
食糧管理法による主要食糧の配給・譲渡・移動の制限およびその違反に対する処罰規定が、憲法25条(生存権)に違反するか。
規範
憲法25条の生存権は国民の生命や生活を保障する趣旨であり、特定の経済的統制法規が公共の福祉、すなわち国民全般の生活の安定確保を目的とし、その手段として個人の行動の自由を制限する場合であっても、配給の増配や許可制等の救済措置が設けられ、合理性を欠かない限り、同条に違反しない。
重要事実
被告人が食糧管理法違反で起訴された事案において、弁護人は、当時の政府が生存に必要な食糧を十分に配給しておらず、国民は自ら食糧を確保せざるを得ない状況であったと主張。その上で、食糧の譲渡や移動を禁止し、違反者を処罰する同法は、人間の生存を否定するものであり、憲法25条に違反し無効であると論じた。
あてはめ
食糧管理法は、国民食糧の確保と国民経済の安定を目的としており、公共の福祉に資するものである。その手段として、生産者からの供出と消費者への公平な分配を図るものであり、消費者の生命を保障する性質を有する。また、譲渡等の一般手的禁止についても許可制や増配給等の特別配給制度が設けられており、社会の現実に合わないほど合理性を欠くものとはいえない。したがって、生存権を否定するものではなく、むしろこれを保護するものであると評価できる。
結論
食糧管理法の規定は、憲法25条が保障する生存権を否定するものではなく、合憲である。
実務上の射程
生存権のプログラム規定説的な性格を示唆しつつ、公共の福祉による経済的統制の正当性を認めた初期判例である。生存権侵害を主張する事案において、立法目的の正当性と手段の合理性(例外規定の有無等)を検討する際の枠組みとして参照される。
事件番号: 昭和23(れ)205 / 裁判年月日: 昭和23年9月29日 / 結論: 棄却
憲法第二五條第一項は、すべての國民が健康で文化的な最低限度の生活を營み得るよう國政を運營すべきことを國家の責務として宣言したものである。すなわち國民は、國民一般に對して概括的にかかる責務を負擔しこれを國政上の任務としたのであるけれども、個々の國民に對して具體的にかかる義務を有するものではない。されば、上告人が、右憲法の…