昭和二二年法律第一二四號刑法の一部を改正する法律の施行が間近であるからといつて、裁判所は、審理の終結又は判決の言渡を、同法の施行後まで延期する義務はない。
刑法の一部改正と審理又は判決の延期の要否
刑法25條,昭和22年法律124號附則1項
判旨
強盗罪の成否における「反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫」の有無は、被害者の主観や場所的・時間的状況のみで決まるのではなく、客観的な性質によって判断される。また、刑法改正による執行猶予制度の拡充が予定されていても、施行前の旧法に従って判決を言い渡すことは適法である。
問題の所在(論点)
1. 被害者の属性や現場の状況から、客観的に反抗を抑圧するに足りる脅迫があったといえるか(2項強盗罪の成否)。2. 刑法改正の施行直前に旧法に基づき判決を言い渡すことは、適正な手続や憲法の精神に反するか。
規範
2項強盗罪(刑法236条2項)における脅迫は、客観的に相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要する。また、刑罰法規の適用は裁判時において施行されている法律に依拠すべきであり、改正法の公布後であってもその施行を待つために審理や判決を延期する義務はない。
重要事実
被告人らは、飲食店にて無銭飲食をして逃げるため、被害者Aを脅迫した。弁護人は、現場が人通りの多い闇市場の中心であり、被害者Aも「支那からの引揚者」で度胸のある人物であったから、被告人らの脅しで意思の自由を喪失するような状況ではなく、強盗罪(2項強盗)ではなく恐喝罪にとどまると主張した。また、原審判決の直後に執行猶予の範囲を広げる刑法改正が施行される予定であったため、施行を待たずに判決を言い渡したのは違憲・違法であるとも主張した。
あてはめ
1. 被告人らの行為は、無銭飲食の支払いを免れるために行われたものであり、その脅迫の態様は客観的に見て被害者の反抗を抑圧するに足りる性質を有していたと認められる。被害者が勝気な性格であることや、場所的に人通りが多いといった個別具体的事情は、直ちに脅迫の客観的性質を否定するものではない。 2. 原審判決時に改正刑法が公布済みであっても、未施行である以上、当時の有効な法律に従って審判するのは裁判所の正当な権限である。改正法の施行を待つために判決を延期しなかったとしても、法令の適用に誤りはない。
結論
被告人らの行為を2項強盗罪として処断した原判決は正当であり、また改正法施行を待たずに判決を言い渡したことも適法である。
実務上の射程
強盗罪の「反抗抑圧」の判断において、被害者の主観的な畏怖の程度や犯行現場の特殊な状況といった個別事情よりも、行為自体の客観的危険性が重視されることを示す一例である。また、時的範囲における法律適用の原則(裁判時法)を再確認する素材として活用できる。
事件番号: 昭和23(れ)1020 / 裁判年月日: 昭和23年10月26日 / 結論: 棄却
論旨は、本件被告人等の被害者に加えた暴行脅迫が、被害者を抗拒不能ならしめる程度のものでなかつたことを主張している。しかし暴行脅迫が如何なる程度のものであつたかということは、事實認定の問題である。
事件番号: 昭和23(れ)1879 / 裁判年月日: 昭和24年5月7日 / 結論: 棄却
しかし犯人によつてなされた暴行又は脅迫が社會通念上相手方の反抗を抑壓する程度のものであつて、右暴行又は脅迫と財物の奪取との間に因果關係がある以上は、被害者自身は單に畏怖されたに止つたとしても又被害者自ら財物を交付したとしても強盜罪が成立するものであつて、恐喝罪とはならないことは當裁判所の判例とするところである(昭和二三…