禁錮以上の刑の確定判決を受けた者はたとい刑の執行猶豫中であるにしても再び犯罪を行つた場合には實刑を科せずして改過遷善の可能性ありとは法律上認め難いのであつて執行猶豫を附することはできないものと言わなければならぬ。
刑の執行猶豫中の者に對する科刑
刑法25條1項2號
判旨
刑法25条1号にいう「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」とは、禁錮以上の刑の確定判決を受けたことがない者を指し、執行猶予中の者もこれに含まれない。したがって、執行猶予期間中にさらに罪を犯した場合には、再度の執行猶予(25条2項)の要件を満たさない限り、法律上重ねて執行猶予を言い渡すことはできない。
問題の所在(論点)
刑法25条1号にいう「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」の意義。特に、禁錮以上の刑につき執行猶予中の者が、猶予期間中に犯した新罪について重ねて執行猶予を付すことができるか。
規範
刑法25条1号の「前に禁錮以上の刑に処せられたることなき者」とは、刑の執行を受けたか否かを問わず、禁錮以上の刑の確定判決を受けたことがない者をいう。執行猶予制度は短期自由刑の弊害を避け改過遷善を促す刑事政策的配慮に基づくものであり、執行猶予中の者は、既に実刑による警告を受けているにもかかわらず再犯に及んだ以上、原則として改過遷善の可能性を認めることはできない。
重要事実
被告人は、過去に懲役1年・執行猶予3年の判決を受け、その判決が確定して執行猶予期間中であった。被告人は、当該猶予期間中にさらに別の犯罪を行い、懲役10月の刑を言い渡されることとなった。弁護人は、刑法25条1号の「刑に処せられた」とは「刑の執行を受けた」ことを意味するため、執行猶予中の被告人に対しても法律上執行猶予を言い渡すことが可能であると主張して上告した。
あてはめ
執行猶予制度の趣旨は、刑の執行を猶予しつつ警告を発することで自発的な改善を促す点にある。刑法26条1号が、猶予期間中の再犯により禁錮以上の刑に処せられた場合に先の執行猶予を取り消すべき旨を定めていることからも、執行猶予中に重ねて猶予を付すことは法の予定するところではない。また、刑法25条2号の規定を照らせば、「刑に処せられ」という文言が刑の執行自体を要件としていないことは明らかである。したがって、被告人のように執行猶予中の身分にある者は、「前に禁錮以上の刑に処せられた」者に該当し、25条1号の要件を欠く。
結論
執行猶予期間中の再犯に対し、法律上重ねて執行猶予を言い渡すことはできない(再度の執行猶予の要件を満たす場合を除く)。本件における原判決の判断は正当である。
実務上の射程
第一猶予(25条1号)の欠格事由としての「刑に処せられた」の解釈を明示したもの。現在は刑法25条2項に「再度の執行猶予」の規定があるため、本判決の法理を前提としつつ、1年以下の懲役・禁錮かつ情状に特に斟酌すべきものがある場合に限り、例外的に猶予が可能となるという答案構成をとるべきである。
事件番号: 平成6(あ)1060 / 裁判年月日: 平成7年12月15日 / 結論: 破棄差戻
確定裁判が実刑判決の場合におけるいわゆる余罪については、刑法(平成七年法律第九一号による改正前のもの)二五条一項を適用して執行猶予を言い渡すことができない。