一 すべて裁判官は憲法及び法律にのみ拘束されることは憲法第七六條第三項の規定するところであり、從つて、下級裁判所の裁判官といえども訴訟事件の審判に當つて憲法適否の判斷をすることができることは當裁判所の判例とするところである。(昭和二二年(れ)第三四二號同二三年一二月八日大法廷判決) 二 上告申立人は法定の期間内に上告趣意書を上告裁判所に差出すべきであり、上告趣意書には上告の理由を明示しなければならないのであるから(舊刑訴法第四二三條、四二五條)、當裁判所に差出すべき再上告趣意書において高等裁判所の差出した上告趣意書の記載内容を上告理由として引用することは適法でない。 三 記録を調べてみると、所論の死體檢案書は、主任監察醫Aの名儀で作成されているばかりでなく、その檢案の實質も同人の責任において行われたものであり、ただ所論の化學的検査については同人の監督の下に藥劑師Bがその補助者としてこれを實施したにすぎないことが明らかである、されば、本件の控訴審が被告人の請求によつて公判期日において右Aを訊問する機會を被告人に與へた以上所論の檢案書を證據に採用したことは、刑訴應急措置法第一二條第一項に違反するものでない。
一 下級裁判所の裁判官が事件の審判に當つて憲法適否の判斷をなすことの可否 二 高等裁判所に差出した上告趣意書の記載内容を再上告理由として引用することの適否 三 死體檢案書の作成者のみを訊問し事實上檢案事務の一部を擔當した補助者を訊問しないでその檢案書を證據に採用することの可否
憲法76條3項,舊刑訴法423條,舊刑訴法25條,刑訴應急措置法12條1項
判旨
死体検案書の作成名義人が責任を持って検案を遂行し、補助者が一部の検査を実施したに過ぎない場合、公判期日で作成名義人を尋問する機会を与えれば、当該書面を証拠とすることは違憲・違法ではない。
問題の所在(論点)
作成名義人と実作業者が異なる書面の証拠採用において、作成名義人のみの尋問で足りるか、また、それが被告人の防御権を侵害し違憲・違法となるか(旧刑訴法および刑訴応急措置法下の問題)。
規範
鑑定・検案の報告書について、その実質が作成名義人の責任において行われ、補助者がその監督の下で一部の技術的作業(化学的検査等)を実施したに過ぎない場合には、作成名義人を公判で尋問する機会を被告人に与えれば、証拠能力を認めることができる。
事件番号: 昭和26(あ)28 / 裁判年月日: 昭和27年11月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】検察官が鑑定を命じた適式の書類が存在しない場合であっても、被告人側が公判において当該鑑定書の証拠調請求に対し異議を述べず、証拠とすることに同意したときは、これを証拠として採用することは適法である。 第1 事案の概要:被告人は、検察官が鑑定を命じた際の適式な書類(鑑定処分許可状等)が存在しないことを…
重要事実
被告人は死体検案書の証拠採用に異議を申し立てた。当該検案書は主任監察医Aの名義で作成され、検案の実質もAの責任において行われていたが、一部の化学的検査については、Aの監督の下で薬剤師Bが補助者として実施していた。控訴審は被告人の請求に基づき、公判期日においてAを尋問する機会を被告人に与えた上で、当該検案書を証拠として採用した。
あてはめ
本件検案書は、名義人である監察医Aが責任を持って作成・遂行したものであり、薬剤師Bの関与はあくまでAの監督下における補助的な化学的検査に留まる。このように、補助者が関与していても実質的な判断主体が作成名義人であると認められる場合には、その名義人たるAに対する尋問機会が保障されれば、被告人の反対尋問権は実質的に確保されたといえる。したがって、Bを尋問せずAのみを尋問した上で証拠採用した手続に違法はない。
結論
本件検案書の証拠採用は適法であり、被告人の権利を侵害するものではないため、上告を棄却する。
実務上の射程
専門的知見に基づく報告書において、補助者が作業の一部を分担している場合の証拠能力の判断枠組みとして活用できる。作成責任者の尋問があれば、全作業員の尋問は不要であるとする実務的な指針を示している。
事件番号: 昭和23(れ)1196 / 裁判年月日: 昭和24年4月30日 / 結論: 破棄差戻
豫審判示代理判事の被告人Aに對する訊問調書は、強制處分請求書の内容を引用しているけれども同請求書は更に司法警察官の意見書が引用されて居つて具体的には犯罪事實の記載はないのであるから、右訊問調書を罪證に供するためには、右訊問調書と共に右強制處分請求書も及び前記司法警察官の意見書を證據調しなければならない。
事件番号: 昭和26(れ)2434 / 裁判年月日: 昭和29年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法38条3項の「その被告人に不利益な唯一の証拠」に該当するか否かは、証拠全体を総合して事実認定がなされているかによって判断され、自白以外に事実を裏付ける補強証拠が存在する場合には、自白のみによる有罪判決とはならない。 第1 事案の概要:被告人Bは、第一審および控訴審において有罪判決を受けた。弁護…
事件番号: 昭和26(あ)3281 / 裁判年月日: 昭和28年7月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】判決書に記載すべき検察官の氏名は、当該事件の審理または判決言渡しのいずれかに関与した検察官の氏名であれば、法的に必要十分である。 第1 事案の概要:被告人らは、粕取焼酎の製造等に関連する刑事事件において有罪判決を受け、上告した。上告趣意の中で、判決書に記載された検察官の氏名が適切でない旨の法令違反…
事件番号: 昭和24(れ)710 / 裁判年月日: 昭和24年6月11日 / 結論: 棄却
一 本件の第一審裁判所は旭川地方裁判所名寄支部であり、公訴提起の檢察官は旭川地方檢察廳名寄支部檢事事務取扱である名寄區檢察廳副檢事慶松貞幹であることは一見記録上明確なところであり、所論も之を認めるところである。而してかかる場合公訴の有効であることは、既に當裁判所の判例とするところである。(昭和二三年(れ)第一六三號同二…