一 憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項において「自己に不利益な唯一の證據が本人の自白である場合には有罪とされ」ないと規定した法意は、現實には犯罪が行われていないのに、被告人の架空は自白によつて犯罪が行われた如く虚構されて有罪とされる危險を防止するために、被告人を有罪とするには、自白のほかに自白の眞實に合致することを裏書するに足りる他の證據(補強證據)を必要とする趣旨を明らかにしたものである。 二 他の證據によつて犯罪が現實に行われた客觀的事實が裏書されて自白が架空のものでないことが確められる限り、たとい犯罪事實の一部の證據が被告人の自白だけであつてもこれらの證據と相まつて自白により犯罪事實を認定することは、法の許容するところと云わなければならない(昭和二二年(れ)第一五三號同二三年六月九日當裁判所大法廷判決參照) 三 贓物に關する罪の成立に必要な贓物たることの知情は、財産罪により不法に領得された物であることを認識すれば足りるのであつて、その物が何人のいかなる犯行によつて不法に領得されたかの具体的事實までをも認識することを要するものではない。 四 罰金刑の言渡を受けた者が罰金を完納することができない場合の勞役場における留置は、刑の執行に準ずべきものであるから(舊刑訴第五六五條、刑訴五〇五條)留置一日に相應する金錢的換價率は、必ずしも自白な社會における勤勞の報酬額と同率に決定されるべきものではない。 五 原審が被告人兩名において金千圓の罰金を完納することができないときは金二〇圓を一日に換算した期間被告人等を勞役場に留置すると言渡したことは、基本的人權と法の下における國民の平等を保障した憲法第一一條に反するものではない。
一 憲法第三八條第三項刑訴應急措置法第一〇條第三項の自白に補強證據を要するとする法意 二 犯罪事實の一部の證據が被告人の自白だけである場合と補強證據 三 賍物罪の成立に必要な賍物たることの認識の程度 四 罰金を完納できない者に對する勞役場留置とその金錢的換價率 五 金千圓の罰金不完納による勞役場留置期間を一日金二〇圓と定めたことの合憲性
憲法38条3項,憲法11条,刑訴応急措置法10条3項,刑法256条,刑法38条2項,刑法18条1項4項,刑法18条,旧刑訴法565条
判旨
自白の補強証拠は犯罪事実が架空でないことを確め得る限り、事実の一部が自白のみによる認定であっても許容される。また、贓物罪の知情は、財産罪により不法領得された物である認識があれば足り、具体的な犯行事実の認識までは不要である。
問題の所在(論点)
1. 補強証拠は、犯罪事実の全範囲(特に主観的要素である犯意)を個別に裏付ける必要があるか(自白の補強範囲)。 2. 贓物罪の成立において、贓物の由来となった具体的犯行(前犯)の内容を認識している必要があるか。
規範
1. 補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)の要否:自白が架空のものでないことを裏書するに足りる他の証拠があれば足りる。他の証拠により犯罪の客観的事実が裏書される限り、犯罪事実の一部の認定が自白のみに基づいても法の許容するところである。 2. 贓物罪における知情:財産罪により不法に領得された物であることを認識すれば足り、何人のいかなる犯行によって領得されたかという具体的構成事実まで認識することは不要である。
重要事実
被告人Aは、強取された銘仙反物等約10点を贓物であることを知りながら買い受けたとして、贓物故買(現・贓物牙保等)の罪で起訴された。原判決は、共犯者の公判供述や被害者の盗難被害始末書等を証拠として「買い受けた事実」を認定し、これらと被告人の自白を総合して「贓物であることの知情」を認定した。これに対し被告人側は、知情の事実が被告人の自白のみによって認定されている点および具体的な知情の内容に欠ける点等を不服として上告した。
あてはめ
1. 本件では、共犯者の供述や盗難被害始末書等の外部的証拠により、被告人が特定の反物等を買い受けたという客観的事実が裏付けられている。これにより自白が架空のものではないことが確認されるため、知情という主観的要素の認定に自白を引用しても、自白を唯一の証拠としたことにはならない。 2. 知情については、当該物件が財産罪により不法に領得された物であるとの認識があれば足りる。原判決が挙げた証拠により、被告人にその程度の犯意があったと認めることは十分に可能である。
結論
1. 犯罪事実の一部(主観的要素等)が自白のみにより認定されても、客観的事実の補強があれば憲法38条3項等には違反しない。 2. 贓物罪の知情は概括的な認識で足りるため、原判決の認定に違法はない。
実務上の射程
自白の補強法則については「罪体(客観的事実)の補強で足り、主観的要素に補強は不要」とする実務上の通説的立場を支える重要判例である。また、贓物罪の知情についても、不法領得物であることの「概括的認識」で足りることを示す標準的な規範として、刑法の故意論および贓物罪の起案において活用される。
事件番号: 昭和24(れ)1428 / 裁判年月日: 昭和26年1月31日 / 結論: 棄却
賍物罪において、本件のように寄蔵、牙保等の客観的事実が他の証拠によつて確認される以上、賍物たるの情を知つていたかどうかに関する事実は、たとえこれを認める直接の証拠は、司法警察官に対する被告人の自白のみであつても、結局、如上各証拠を綜合して、犯罪事実の全部が認められるかぎり、刑訴応急措置第一〇条三項にも憲法法第三八条第三…