一 原審は被告人の自白のみならず多くの證據を綜合して判示事實を認定したのであつて、自白と原審舉示の他の證據とを綜合すれば原審認定の犯行事實を認定することが出來る。かかる場合犯人が被告人であることの證據が自白のみであつても違憲違法ではない。 二 殺人の動機及殺人に到るまでの被告人の心理的推移過程は、被告人の公判廷外の自白と被告人を取り調べた警察官の供述によつて認定しても違法ではない。 三 被告人の取調にあたつた司法警察官の作成した「殺人事件取調状況について」と題する記録編綴の書面中に、數日來犯行を否認していた被告人に對して」只今から捜査會議を始めるが取調にあたつている者は殆んど犯人は君だと信じている」とか唾液鑑定の結果によつては「否認しても無駄である」とか「自供が送れる程被告人に不利である」と繰り返し説得し眞相を追及した旨の記載があることだけで被告人の自白が強要によつたものと認定することはできない。 四 被告人が第一、二審公判廷で、警察での自白は取調官からアゝではないかコウではないかと問い詰められ強激な堪えられぬ苦痛を受けたので、取調官の云わるまゝ答えて了つたものでそれは皆事實に反すると供述したことだけで、直ちに自白が強要によつたものと斷定することはできない。 五 證人尋問調書に當該證人が自己の證言を補充するため書面を差し出し裁判長がこれを同調書の末尾に添付すると告げた旨の記載があり、且つ同調書と該書面との間に同調書作成者の契印が押してあるときは、右書面は同尋問調書の一部をなすものと認められる。 六 證據によらずして事実を認定した違法があつても、その事實が犯罪の動機として極めて輕微且つ間接の遠因に過ぎないため判決に影響を及ぼすべきものとは到底官考えられない場合には上告の理由とならない。
一 犯人が被告人であることの證據が自白のみである場合の正否 二 犯罪の動機等を被告人の自白及び取調警察官の供述によつて認定することの可否 三 自白の強要を認定し得ない一事例 四 自白の強要を認定し得ない事例 五 證人が自己の證言を補充するために差し出した書面と證人尋問調書との關係 六 犯行の動機の一部を證據によらずして認定した違法と上告理由
憲法38条3項,憲法38条1項,旧刑訴法337条,旧刑訴法56条,旧刑訴法71条2項,旧刑訴法336条,旧刑訴法409条
判旨
犯人が被告人であることの証拠が自白のみであっても、自白と他の証拠(補強証拠)を総合して犯行事実が認定できるのであれば、憲法38条3項及び刑事訴訟法に違反しない。
問題の所在(論点)
自白以外に、被告人が犯人であることを直接示す証拠がない場合に、有罪を認めることが憲法38条3項の「自己に不利益な唯一の証拠」の禁止に抵触するか。また、補強証拠はどの程度の証明力を持つべきか。
規範
自白の補強証拠(憲法38条3項、刑訴法319条2項)は、自白にかかる事実の真実性を担保しうるものであれば足り、犯人が被告人であることを直接証明する性質まで備えている必要はない。したがって、自白と他の証拠を総合して犯行事実(客観的な罪の発生および犯人と被告人の同一性)が認定できる場合には、有罪判決を維持することができる。
重要事実
被告人が殺人罪に問われた事案において、被告人は自白をしていた。弁護人は、被告人が犯人であることの証拠が自白のみである点は憲法違反であると主張した。また、被告人が所有していたとされる地下足袋の有無、犯行現場の視認性、帰宅時間や移動経路の合理性、自白の任意性等について、原審の事実認定を争い上告した。
あてはめ
最高裁は、原審が被告人の自白だけでなく多くの証拠(妻の証言、帰宅時間に関する証拠、現場の状況等)を総合して事実を認定している点を指摘した。これら自白以外の証拠によって、自白の内容が虚偽でないことが裏付けられ、総合的に犯行事実(被告人が犯人であること)が認定可能であるとした。さらに、時間的矛盾や視認性の反論についても、原審が採用した証拠に基づけば合理的な説明が可能であり、自白の任意性を否定するに足りる資料もないと判断した。
結論
被告人が犯人であることの証拠が自白のみであっても、他の間接的な証拠と総合して有罪を認定することは憲法および法律に違反しない。上告棄却。
実務上の射程
補強証拠の範囲に関する基本判例。補強証拠は、自白の真実性を保障する程度で足り、罪体(客観的犯罪事実)のすべてや犯人との同一性を直接証明する必要はないとする実務上の準拠枠組みを示す。答案上は、補強証拠の必要性の程度を論じる際の規範として引用する。
事件番号: 昭和25(れ)1867 / 裁判年月日: 昭和26年3月9日 / 結論: 棄却
窃盗犯人が被告人であることの証拠は被告人の自白だけであつても、被害者の始末書に窃盗被害の日時及び被害物件等について被告人の自白にかかる事実を裏書するに足りる記載がある以上、右自白と始末書の記載を綜合して被告人に窃盗の罪を認めても違憲違法ではない。
事件番号: 昭和22(れ)14 / 裁判年月日: 昭和23年2月12日 / 結論: 棄却
一 判決における證據摘示の有無は判決書の全面にわたりこれを索むべく必ずしもいわゆる證據説明の部分に限定すべきでない。 二 公判廷における被告人の自白は、憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項の自白に含まれない。(なお、公判廷における自白について、裁判官齊藤悠輔の補足意見がある)
事件番号: 昭和22(れ)153 / 裁判年月日: 昭和23年6月9日 / 結論: 棄却
一 原判決は、被告人の自白のみによつて判示事實を認定したものではなくて、被告人の自白の外に、Aの提出した(強盗)盗難被害届と匕首の存在とを總合して判示事實を認定したものであることは記録上明白であり、右證據によつて優に判示事實を認定するに足るものである。所論の如く被告人がB、C等と共謀したという事實に對する證據は被告人の…