少年法第六四條は、其の身上に關する事項の調査の方法に付ては、格別なる制限を設けて居るものとは解することを得ないから、其の調査の目的を達するに適當なる限り、當該裁判所の適當と認むる方法に依り之を施行することを妨げるものとは謂ひ得ない。從つて其の方法として、裁判所が適當と思料するときは、公判廷に於て被告人に對し、裁判所自から之等の點に付き直接訊問の方法のみに依り調査を遂げたとしても、敢て之を違法と斷ずることは出來ない。然しさればと云つて、此の直接訊問のみに依る調査が違法でないからとて、常に少年事件の全部に關し此の方法のみを實施するも悉な適法なりとも斷じ得ないのであつて、要は當該具體的事件毎に諸般の状況を考量して、果して當該調査の方法が少年法の要求する所と背馳することなきや否やに依つて判決するの外なきものと思料する。
少年の刑事事件で少年法第三一條の調査をする方法
少年法64條
判旨
少年に対する刑事事件の身上調査において、公判廷での直接訊問のみによる調査や医師の診察を欠くことも、具体的事件の状況に照らし少年法の趣旨に背馳しない限り、裁判所の裁量として適法と解される。
問題の所在(論点)
少年に対する刑事事件において、少年法(旧法)64条・31条が定める身上調査(家庭環境、経歴、心身状況等)を、公判廷での直接訊問のみで行い、かつ医師の診察を経ないことが、訴訟手続上の違法にあたるか。
規範
少年法(旧法)の身上調査規定の趣旨は、心身の発育未熟な少年の処遇を適正化するため、身上に関する事項を懇切周到かつ科学的に調査することにある。もっとも、調査方法には格別の制限はなく、調査の目的を達するに適当な限り、裁判所の裁量に委ねられる。具体的には、公判廷での直接訊問のみによる調査や、必要がないと認めた場合の医師による診察の不実施も、当該事件の諸般の状況を考量して法の趣旨に背馳しない限り、直ちに違法とはならない。
重要事実
被告人は18歳未満の少年であり、窃盗等の刑事事件に問われた。一審では身上調査の事跡が乏しかったが、原審(控訴審)は公判廷において、被告人に対し直接訊問を行う方法で、少年法所定の調査事項を逐一取り調べた。しかし、医師による診察は実施しなかった。弁護人は、このような調査手続は少年法の規定(旧法64条、31条)に違反し、判決に影響を及ぼすべき違法があると主張して上告した。
あてはめ
原審の公判調書によれば、裁判所は直接訊問という方法を用いながらも、調査事項を逐一取り調べており、調査の目的を達するに足りる内容であったといえる。また、医師の診察を行わなかった点も、原審がその必要がないと判断したことによるものであり、裁量の範囲内と解される。本件の諸般の状況に照らせば、これらの調査方法は少年法の要求する趣旨・精神に背馳するものとは認められない。
結論
原審の身上調査手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
少年事件の刑事手続における調査の必要性と裁判所の裁量を認めた判例である。答案上は、調査が不十分な場合でも「直接訊問等で実質的な調査が尽くされているか」という観点から、手続の適法性を論ずる際の基準となる。ただし、判旨は「漫然と簡便な方法に依拠すること」を強く戒めており、事案の難易や少年の属性に応じた慎重な審理が要請される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和23(れ)1828 / 裁判年月日: 昭和24年4月7日 / 結論: 棄却
一 少年の身上に關する事項の調査は裁判所自からこれを爲すと少年保護司に囑託してこれを爲すことを妨ぐるものでないこと少年法第六四條第二項の規定によつて明瞭である。 二 本件においては記録中に所論小學校長作成の被告人に關する在學中の成績性行、身體状況等の調査原簿寫が存在し、なお、原審公判調書によれば本件につき原審裁判所は、…
事件番号: 昭和23(れ)1473 / 裁判年月日: 昭和24年2月8日 / 結論: 破棄差戻
右訊問調書については原審公判廷では適法な證據調をしたものと認めるに由なく、かかる證據調をしない右訊問調書を犯罪事實認定の資料に供した原判決は採證の法則に反した違法であるもので右の違法は原判決に影響を及ぼすものといわなければならない。