裁判所は刑事訴訟法第三四二條のような特別の規定に該當する場合は別として、其の他の場合に於ては自由に證據調の限度を定めることが出來るのであつて集取されてある一切の證據に付て其の取調をしなければならないものでない。記録に依れば、原審に於て裁判長が被告人に對し押收品の棒(證第一號)を示した形跡がないことは辯論の通りであるが、右押收品が刑事訴訟法第三四二條所定の證據物でないことは記録上明白であるから、原審が之に付て證據調をしなかつたとしても少しも違法ではない。
押收物件と證據調
刑訴法342條
判旨
裁判所は、法定の例外を除き、証拠調べの限度を自由に決定できる裁量を有しており、提出された全ての証拠を調べる義務はない。また、証拠の作成者等への訊問請求権があることを裁判所から進んで告知する必要はない。
問題の所在(論点)
裁判所は、証拠として提出された物件(本件では犯行に用いられた木の棒)をすべて取り調べなければならないのか。また、証拠書類の採用にあたり、裁判所は被告人に対し、作成者への訊問請求権があることを告知する義務を負うか(旧刑訴法および応急措置法下の憲法的要請の存否)。
規範
裁判所は、刑事訴訟法に特段の定め(必要的証拠調べ等)がある場合を除き、自由に証拠調べの限度を定めることができ、集取された一切の証拠を調べる必要はない。また、証拠の作成者等に対する訊問請求権については、被告人からの請求があればその機会を与えなければならないが、裁判所から進んでその権利の存在を告知する義務まではない。
重要事実
被告人は、米の闇売買に関する調査を行っていた巡査部長に対し、暴行を加えて職務を妨害し負傷させたとして、物価統制令違反および公務執行妨害、傷害の罪で起訴された。原審において、犯行に用いられたとされる「木の棒」が証拠物として押収されていたが、裁判所は公判廷でこれを示さず、証拠としても採用しなかった。また、証拠採用された書面(始末書等)について、裁判所は被告人に対し「証拠調べの結果について意見を述べる機会」は与えたが、「作成者への訊問を請求できる権利」については特段告知しなかった。
事件番号: 昭和26(あ)1680 / 裁判年月日: 昭和28年3月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白に関する証拠調べの順序について、他のすべての証拠の取調べを終えた後に行うべきであるとの主張は認められず、第一審の手続に違法はない。 第1 事案の概要:被告人が刑事裁判の第一審において、自白に関する証拠の取調べ順序が不当であると主張した事案である。弁護人は、自白の証拠調べは他のすべての証…
あてはめ
まず、押収された「木の棒」については、必要的証拠調べが定められた証拠物に該当しないため、裁判所がその取調べを行わないことは適法であり、判決の証拠としても採用されていない以上、証拠調べの手続違背はない。次に、証拠書類(始末書)の採用について、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律12条1項の趣旨は、被告人からの「請求」があれば訊問の機会を保障する点にある。したがって、裁判所が被告人の意見を聴取している以上、権利の存在自体を能動的に教示しなかったとしても、同条の趣旨を没却するものではなく、被告人の権利を侵害したとはいえない。
結論
裁判所に証拠調べの範囲を決定する裁量を認め、また訊問請求権の告知義務を否定して、原判決を適法とした。
実務上の射程
裁判所の証拠調べに関する裁量権を認める古典的な判例である。現行法下(刑訴法297条、305条以下)においても、証拠決定の裁量は原則として裁判所に属するが、被告人の防御権確保の観点から、必要性のある証拠の却下は裁量の逸脱とされる可能性がある点に注意を要する。告知義務の否定については、現代の訴訟実務における釈明権や教示の在り方を検討する際の比較対象として機能する。
事件番号: 昭和25(れ)1359 / 裁判年月日: 昭和25年12月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務執行妨害罪の成立には、公務員が公務の執行中であることを認識しつつ暴行を加えることが必要である。また、証拠の一部が他の証拠と矛盾する場合であっても、その一部を事実認定に援用することは採証法則に反しない。 第1 事案の概要:岡山市巡査Aが食糧管理法違反容疑者を逮捕しようとした際、被告人は同巡査に対…
事件番号: 昭和28(あ)2450 / 裁判年月日: 昭和29年8月24日 / 結論: 棄却
記録についてみるに、原判示第三の事実認定の証拠として挙示されている証人A等に対する裁判官の各証人尋問調書によれば右各証人の尋問には検察官及び弁護人が立会つておる。右証人尋問は本件起訴後第一審第一回公判期日前に刑訴二二七条に基ずく請求によつてなされたものであるが、右各調書は差戻前の第一審第一回公判において、検察官から証拠…