一 公務執行妨害罪の職務行為の根拠となるべき法令は、起訴状にこれを起因として示すことを必要としない。 二 本件事案発生の経緯にかんがみ前記認定のように(原判決参照)、これ以上集会を継続させるときは、一般通行人や附近の住民の身体、財産等に危害を及ぼす犯罪の発生する虞があり、これを解散させる緊急の必要があつたものと認められるときは、警察官はこれを予防するため集会の解散を警告し、これに応じない場合には実力をもつて解散を強行することが警察官の職務権限に属するものである以上右王子警察署長の発した前記解散命令は適法であるといわねばならない。 三 第一審裁判所が被告人に対し無罪の言渡をなし、これに対し検察官から控訴の申立があつた場合において、控訴審が右第一審判決は事実を誤認したものとしてこれを破棄し、みずから犯行現場およびその附近の検証を行い証人四名の尋問および写真三葉の取調をなし、なお、犯行当日現場で撮影したフイルムの映写を実施した上、右原審の検証調書と訴訟記録ならびに第一審裁判所において取り調べた証拠によつて被告人に対し有罪の判決をしたときは、刑訴第四〇〇条但書の規定に違反しない。
一 公務執行妨害罪の職務行為の根拠となるべき法令を訴因として示すことの要否 二 警察官等職務執行法第五条の解釈、適用に誤ありと認められない事例 三 刑訴法第四〇〇条但書に違反しない事例
刑法95条,刑訴法256条1項,刑訴法256条2項,刑訴法256条3項,刑訴法400条,警察官等職務執行法5条,憲法31条,憲法37条
判旨
公務執行妨害罪の訴因において、職務行為の根拠となる法令を明示することは必要ではない。また、警察官職務執行法5条に基づき、犯罪の制止等のために行われる職務執行は適法な公務の執行に該当する。
問題の所在(論点)
公務執行妨害罪の訴因において職務行為の根拠法令を明示する必要があるか、また、当初訴因で示された職務の根拠法令と異なる認定をすることが許されるか。
規範
公務執行妨害罪(刑法95条1項)の訴因において、当該職務行為の具体的な根拠法令を記載することは、被告人の防御の範囲を画定するために不可欠な要素とはいえず、訴因として必要ではない。また、警察官職務執行法5条に基づく犯罪の予防・制止等の措置が適正な手続に従って行われている限り、それは「公務」としての適法性を有する。
重要事実
被告人らは、王子警察署長による解散命令に基づき、校内の集団や道路上の集合者を解散させていた巡査に対し、暴行を加えてその公務の執行を妨害した。弁護人は、検察官が訴因において職務行為の根拠と内容を明示したにもかかわらず、原判決がそれとは異なる根拠・内容を認定したこと、および警察官職務執行法5条の解釈誤りがあることを主張して上告した。
あてはめ
本件では、被告人らが解散命令を執行中の巡査に対し暴行を加えた事実に変わりはなく、訴因に記載された事実と原判決が認定した事実に実質的な相違はない。公務執行妨害罪の訴因として、職務の具体的根拠法令を明示することまでは要しないため、原判決が法令の根拠について訴因の記載に拘束されず認定を行ったとしても、被告人の防御に実質的な不利益を与えるものではない。また、警察官職務執行法5条の適用についても、当時の状況に照らし適法な職務執行の範囲内であると認められる。
結論
公務執行妨害罪の訴因に職務の根拠法令を記載する必要はなく、原判決の事実認定は妥当であるため、上告を棄却する。
実務上の射程
訴因の特定(刑訴法256条3項)における「識別機能」の限界を示す。公務執行妨害罪では『どの職務に対し、どのような暴行を振るったか』が特定されていれば足り、根拠法令の適否は証拠調べを通じた実体的適法性の問題として扱われる。実務上、訴因変更の要否を検討する際の判断材料となる。
事件番号: 昭和38(あ)1203 / 裁判年月日: 昭和39年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法95条の公務執行妨害罪は、公務員個人を特別に保護するものではなく、公務員によって執行される公務そのものを保護法益とするものである。 第1 事案の概要:被告人らは、公務員の職務執行に際して暴行または脅迫を加えたとして、公務執行妨害罪等の刑責を問われた。これに対し弁護側は、同罪が公務員を不当に優遇…