一 憲法第三七條第二項は、不正不當の理由に基かざる限り辯護人の申請した證人はすべて裁判所が喚問すべき義務があるという趣旨に解すべきではない。 二 原審が辯護人のした證人申請を却下しても、事件の具體的性質、環境其の他諸般の事情を斟酌し、該證人の喚問は必ずしも裁判に必要適切なものでないと認めても實驗則に反しない以上右却下は違法ではない
一 憲法第三七條第二項の法意 二 辯護人のした證人申請に對する却下決定の違法の有無
憲法37條2項,刑訴法344條1項
判旨
裁判所は、証人申請の採否について自由裁量を有するが、主観的な専制や独断に陥り、実験則に反する判断をすることは許されない。憲法37条2項は、不当でない限り全証人を喚問する義務を課すものではなく、必要適切な証人を喚問すれば足りると解される。
問題の所在(論点)
裁判所による証人申請の却下は、憲法37条2項(証人審問権・喚問権)に反し、裁量権の逸脱として違法となるか。
規範
刑事裁判における証人申請の採否は、裁判所の自由裁量に属する。ただし、裁判所はその決定において主観的な専制ないし独断に陥ることは許されず、実験則に反するに至れば不法となる。憲法37条2項の趣旨も、不必要と思われる証人まで悉く訊問すべき義務を課すものではなく、各具体的事件の性格、環境、属性、その他諸般の事情を深く斟酌し、当該事案の裁判に必要適切であるか否かを基準に判断すべきである。
重要事実
暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴された被告人の弁護人が、証人Bの喚問を申請した。これに対し、原審は証人Bの申請を却下し、証人喚問を行わずに事実認定を行った。被告人側は、不正不当な理由がない限り申請された証人はすべて喚問すべき義務があり、本件却下は憲法37条2項に違反すると主張して上告した。なお、記録上、被害者の他に犯行の目撃者や関係人の供述書など、他の適当な証拠が既に存在していた。
事件番号: 昭和30(あ)2287 / 裁判年月日: 昭和32年12月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は裁判所が必要と認めた証人の尋問について規定したものであり、被告人側の証人申請を裁判所が必ず採用しなければならない義務を課すものではない。また、一個の犯罪事実の認定において、共謀や実行行為等の構成要件ごとに証拠を区別して挙示する必要はなく、総合して犯罪事実を認定するに足りる証拠の標目…
あてはめ
本件において、事案の性質は比較的単純であり、犯行は公衆の前で行われたものであった。加えて、記録上には被害者のほかに目撃者等の供述書という適当な証拠が既に存在していたことが認められる。これらの事情を斟酌すれば、申請された証人の喚問が裁判に必要不可欠であるとはいえず、裁判所がこれを不必要として却下した判断は、実験則に反するものとは認められない。
結論
本件証人申請の却下は裁判所の適法な裁量権の範囲内であり、憲法37条2項に違反しない。
実務上の射程
裁判所の証拠決定(刑訴法190条等)に関する裁量権の限界を示した重要判例である。答案上は、憲法37条2項の権利も「裁判上の必要性」による制限を受けることを論証する際に引用する。特に、他の証拠により事実認定が十分可能である場合には、証人申請を却下しても裁量権の逸脱とならないとする判断枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和28(あ)1438 / 裁判年月日: 昭和28年6月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項前段は、被告人が申請したすべての証人を裁判所が取り調べる義務を課しているものではなく、証拠採用の是非は裁判所の裁量に委ねられている。 第1 事案の概要:被告人側は、特定の証人の取調べを申請したが、裁判所がこれを採用しなかった。弁護人は、この裁判所の措置が、被告人の証人喚問権を保障した…
事件番号: 昭和31(あ)2519 / 裁判年月日: 昭和31年11月13日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法382条の2に基づき事実誤認を主張する場合、控訴審において新たな証拠調べを求めるには、同条所定の疎明資料の提出を要する。必要な資料を提出せずにされた証人尋問の申請を却下することは、適法な証拠決定であり違法ではない。 第1 事案の概要:弁護人が、控訴趣意書において事実誤認を主張し、その立証…
事件番号: 昭和40(あ)2229 / 裁判年月日: 昭和41年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項は、被告人が申請した証人を裁判所が健全な裁量により不要と認めた場合にまで、その取調べを義務付けるものではない。 第1 事案の概要:被告人Bは、第一審または控訴審において証人尋問を請求したが、原審(控訴審)は当該証人申請を却下した。これに対し被告人側は、証人尋問を行わなかったことが憲法…