刑訴應急措置法第一〇條第二項の「不當に長く抑留若しくは勾禁された後の自白」というのは、抑留若しくは勾禁が自白を生んだ場合ばかりでなく抑留若しくは勾禁の期間が長きに亘つて、その後に初めて自白があつたような場合には、抑留若しくは勾禁と自白との間に因果關係があつたと見る趣旨と解すべきである。從つて反對に自白と抑留若しくは勾禁の生活との間に因果關係がないことが明らかである場合は右の自白に含まれないものと見るのが相當である。
自白と抑留若しくは勾禁との間に因果關係のないことが明らかな場合と刑訴應急措置法第一〇條第二項
刑訴應急措置法10條2項
判旨
不当に長い拘禁後の自白(憲法38条2項、刑訴法319条1項)とは、拘禁が自白を誘発した場合のみならず、長期間の拘禁後に初めて自白がなされた場合を含むが、拘禁と自白との間に因果関係がないことが明らかな場合はこれに当たらない。
問題の所在(論点)
拘禁期間が70余日に及んだ後になされた自白が、憲法38条2項および刑訴法319条1項(当時:刑訴応急措置法10条)にいう「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」として、その証拠能力が否定されるか。特に、拘禁前から一貫して自白していた場合の「拘禁と自白の因果関係」の要否が問題となる。
規範
「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」とは、抑留・拘禁が自白を生んだ場合のみならず、その期間が長期にわたり、その後に初めて自白がなされた場合を指し、原則として抑留・拘禁と自白との間に因果関係があったと推定する趣旨である。もっとも、自白と拘禁生活との間に因果関係がないことが明らかである場合は、右の自白に含まれないと解するのが相当である。
重要事実
被告人は、犯行発生(昭和21年10月17日)の翌日から警察官や検事の取調べを受け、同月23日の第1回予審訊問において殺意を自認した。その後、第2回予審訊問が行われるまで70余日の拘禁期間があったが、被告人はこの第2回予審訊問においても引き続き殺意を認める供述をした。弁護人は、この第2回予審訊問における自白が「不当に長い拘禁後の自白」に当たり、証拠能力が否定されるべきであると主張して上告した。
あてはめ
本件における70余日の拘禁期間は必ずしも短いとはいえない。しかし、被告人は犯行直後から警察、検事局、第1回予審を通じて卒直に殺意を自認しており、長期拘禁後の第2回予審訊問で初めて殺意を認めたわけではない。被告人が否認し続けていた末に自白したという事情はなく、むしろ犯行直後から一貫して自白を維持していたものである。したがって、本件自白と拘禁生活との間には因果関係がないことが明らかであるといえる。
結論
本件自白は「不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白」には該当せず、証拠能力を認めた原判決に憲法違反の違法はない。上告棄却。
実務上の射程
「不当に長い拘禁後の自白」の不当性は、主に不当な圧迫による虚偽排除および人権尊重の観点から認められる。判例は、長期間の拘禁があれば原則として因果関係を認める(推定する)立場に立ちつつ、本件のように「当初から一貫して自白していた」といった事情により因果関係の不存在が明確に立証される場合には、例外的に証拠能力が認められることを示している。答案上は、拘禁期間の長さだけでなく、自白に至る経緯や一貫性の有無を確認し、拘禁と自白の因果関係を評価する際の判断材料とすべきである。
事件番号: 昭和26(れ)2215 / 裁判年月日: 昭和27年1月29日 / 結論: 棄却
強盗が数人を殺害しようと決意し、続け様に三発拳銃を発射して一名を死亡させ他の一名に傷害を与えたとき、刑法第五四条第一項前段にあたる強盗殺人、同未遂であるとした原審の判断は相当である。