一 大審院は廢止せられ、その受理していた一群の訴訟事件は最早大審院において審判を受けることが出來なくなつたから東京高等裁判所において舊大審院と同樣に特に五人の裁判官の構成による合議體をもつて審判すべきものとし又大審院の裁判權と同樣に從來どうり量刑不當及び事實誤認の上告理由をも許すべきことを規定し、更に又實際の運用においても主として從來の大審院判事が引き續きその衝に當ることができるように構想せられたものであつて、立法の上で國民の基本的人權は十分に尊重せられている。從つて、裁判所法施行令第一條が憲法の精神に背くところはない。 二 最高裁判所は所論のように大審院の後身でもなくその承繼者でもなく又兩者の間に同一性を認めることもできない。されば、論旨のごとく大審院に繋屬した事件は、最高裁判所において當然繼承して審判しなければならぬという道理もなく、かかる憲法の法意が存在するとも考えられない。最高裁判所の裁判權については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事件が終審としてその事物管轄に屬すべきことは、憲法上要請されているところであるが(第八一條)その他の刑事、民事、行政事件の裁判權及び審級制度については、憲法は法律の適當に定めるところに一任したものと解すべきである。そして、最高裁判所は必ずしも常に訴訟の終審たる上告審のみを擔任すべきものとは限らない。外國の事例も示すように時に第一審を掌ることも差支えない。(裁判所法第八條參照)又必ずしも常に最高裁判所のみが終審たる上告審の全部を擔任すべきものとは限らない。他の下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることも差支えない。わが國の過去においても下級裁判所たる控訴院が上告の一部を取扱つた事例もあり、又現在においても下級裁判所たる高等裁判所が地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に對する上告について裁判權を有している(裁判所法第一六條)。その間における法律解釋統一の問題は、他におのずから解釋の方法が幾らも存在し得る。されば、裁判所法施行令第一條が「大審院においてした事件の受理その他の手續は、これを東京高等裁判所において事件の受理その他の手續とみなす」旨を規定したのは、毫も憲法の法意又は裁判所法第七條の規定に抵觸する違法ありとは考えられない。 三 裁判所法第七條は同法施行後新に提起される上告事件(高等裁判所の第二審判決及び地方裁判所の第一審判決に對する上告に限る)に關するものであり、舊事件には適用がないことを明らかにしたのが、裁判所法施行法第二條であつて、舊上告事件は同條及び裁判所法施行令によつて處理される譯である。これらの規定は、法律改廢の際における經過規定として當然定め得べきことを定めたに過ぎないものであつて、所論のように裁判所法第七條の効用を削減し施行法規の使命に副わざるものであると言うことは當を得ない。又裁判所法施行法第二條はいわゆる舊事件の裁判權をいかに配慮せしめるかを一切の政令に委したものと解すべきであるから政令たる裁判所法施行令が舊大審院事件を東京高等裁判所の管轄に屬せしめた結果最高裁判所に配屬せしめられる舊事件が全然なくなつたとしてもそれは論旨のごとく裁判所法施行法第二條の委任の趣旨に背いた違法があるとか又、裁判所法第一七條に適合しないとかの非難を加えることはできない。 四 (裁判所法施行令第一條は國民の既得權益を不當に抑損し憲法第三二條の趣旨に反するものであるとする)論旨は「當然最高裁判所において處理すべき事件を殊更下級裁判所の管轄と定めた」ことは前提として既得權侵害を主張するのであるがかかる前提の採用すべからざることは前述のとおりであるから國民の既得の權利利益を不當に抑損したものでないことはおのずから明白である。いわゆる舊事件の訴訟關係人に對しては裁判所法施行法及び裁判所法施行令によつて裁判所において裁判を受ける權利を明確に認めているのであるから憲法第三二條に違反するという非難も當らない。
一 裁判所法施行令第一條の合憲性と基本的人權の尊重 二 裁判所法施行令第一條の合憲性と審級制度 三 裁判所法施行令第二條の法意と同法施行令第一條 四 裁判所法施行令第一條の合憲性と憲法第三二條
裁判所法施行令1條,憲法11條,憲法第81條,憲法76條1項,憲法32條,裁判所法施行法2條,裁判所法7條
判旨
最高裁判所は大審院の後継者ではなく、違憲審査権の終審としての権限を除き、裁判権の配分や審級制度の設計は法律の広範な裁量に委ねられている。旧大審院に係属していた事件を東京高等裁判所の管轄とした裁判所法施行令等の規定は、憲法及び裁判所法に違反しない。
問題の所在(論点)
1. 最高裁判所は大審院の当然の承継者として、旧大審院事件を審判する義務を負うか。 2. 旧大審院事件を高等裁判所の管轄に属せしめる政令の規定は、憲法81条、32条及び裁判所法に違反するか。
規範
憲法81条は、最高裁判所が違憲審査を必要とする事件の終審であることを要請しているが、その他の刑事・民事・行政事件の裁判権及び審級制度については、憲法は法律の適当に定めるところに一任している。最高裁判所は大審院と同一性を有する後継機関ではなく、旧法下で受理された事件をいかなる裁判所に承継させるかは、立法府が組織、構成、使命、被告人の権利保護等を考慮して決定できる広範な裁量事項である。
重要事実
日本国憲法及び裁判所法の施行に伴い、大審院が廃止され最高裁判所が設置された。これに伴い、裁判所法施行法2条及び同法施行令1条は、旧大審院に係属していた事件を東京高等裁判所の受理した事件とみなすと規定した。上告人は、大審院に係属していた本件事件が最高裁判所に承継されないことは、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害し、裁判所法7条等に違反すると主張して争った。
あてはめ
最高裁判所は大審院と組織、構成、権限、性格が著しく相違し、同一性を認められないため、当然に事件を継承すべき法理は存在しない。また、本件政令は旧大審院事件につき、東京高等裁判所が5人の裁判官による合議体で審理し、事実誤認等の上告理由も許容するなど、実質的に大審院と同様の権限と組織で審判を行う仕組みを整えている。これにより国民の裁判を受ける権利は十分に尊重されており、基本的人権の侵害や立法権の逸脱はないといえる。
結論
最高裁判所は大審院の承継者ではなく、旧事件を東京高裁の管轄とした規定は憲法及び裁判所法に違反しないため、上告を棄却する。
実務上の射程
司法制度改革や審級構造の変更における立法裁量の広範さを認めた判例。憲法81条が直接要請する違憲審査権の終審性以外の事項(事物管轄や審級の分配)は、法律(およびその委任を受けた政令)による柔軟な設計が可能であることを示している。
事件番号: 昭和26(れ)2485 / 裁判年月日: 昭和27年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑事訴訟法施行法の改正により創設された「準新事件」の規定、およびこれに基づく量刑の判断は、憲法11条、14条、31条、22条に違反しない。 第1 事案の概要:刑事訴訟法の改正に伴い、刑訴施行法によって「準新事件」として扱われることになった被告人が、当該施行法の改正が憲法11条(基本的人権)、14条…