一 死刑そのものは憲法第三六條にいわゆる「殘虐な刑罰」ではなく、したがつて刑法死刑の規定は憲法違反ではない。補充意見がある。 二 原審辯護人が原審公判において、被告人に精神病の懸念があることを主張したに過ぎないときは、刑事訴訟法第三六〇條第二項に規定する事由があることを主張したものとは解せられないので、原判決がその點について判断を示さなかつたからとて判断を遺脱したものとはならない。
一 死刑の合憲性 二 被告人に精神病の懸念があることの主張と刑訴法第三六〇條第二項
憲法13條,憲法31條,憲法36條,刑法9條,刑法11條,刑訴法360條2項
判旨
死刑制度は、公共の福祉による生命の権利の制限を許容する憲法13条及び適正な手続による生命の剥奪を想定する同31条から、直ちに同36条の「残虐な刑罰」には該当せず、合憲である。ただし、火炙り等の非人道的な執行方法を定める法律は同条に違反し得る。
問題の所在(論点)
死刑制度そのものが、憲法36条の禁止する「残虐な刑罰」に該当し、憲法違反となるか。また、憲法13条および31条との整合性をいかに解すべきか。
規範
1. 憲法13条は生命の権利を保障するが、公共の福祉による制限を当然に予想している。 2. 憲法31条は、法律の定める適正な手続により生命を奪う刑罰を科すことを明示的に認容している。 3. 憲法36条が禁じる「残虐な刑罰」とは、その執行方法等が時代や環境に照らし人道上の見地から残虐性を有するもの(火炙り、磔、晒し首等)を指し、死刑そのものが直ちにこれに該当するわけではない。
重要事実
被告人は殺人等の罪により死刑の言渡しを受けた。これに対し、死刑は憲法36条が絶対に禁止する「残虐な刑罰」に該当し、死刑を規定する刑法199条等は憲法違反であるとして上告した。また、犯行当時の精神状態について審理不尽がある点もあわせて主張された。
あてはめ
まず、憲法13条の「公共の福祉」による制約可能性、および31条の「生命を奪う刑罰」という文言から、憲法は死刑制度の存在を前提とし、是認していると解される。死刑は社会悪の根源を絶ち社会を防衛するための窮極の刑罰であり、全体に対する人道観から存続の必要性が認められる。次に、36条の「残虐な刑罰」については、執行方法等が人道上許容できない場合に限定されるべきであり、現行の死刑制度そのものが直ちにこれに当たるとは認められない。将来的に国民感情や文化の発達により死刑が不要とされる時代が来れば別であるが、現時点では合憲である。
結論
刑法が死刑を規定していることは、憲法13条、31条、および36条に照らして合憲である。
実務上の射程
死刑の合憲性に関するリーディングケース。答案上は、憲法36条の「残虐な刑罰」の定義を「人道上の見地から残虐性を有するか」という相対的な基準として引用する。また、生命の権利(13条)も絶対無制約ではないことを説明する際の根拠として用いる。補足意見にある「時代による変遷の可能性」は、将来の憲法解釈の変容可能性を示すフレーズとして有用。
事件番号: 昭和26(あ)4480 / 裁判年月日: 昭和28年11月27日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】現行の死刑制度は憲法に違反するものではなく、過去の大法廷判決の趣旨に照らして合憲である。 第1 事案の概要:被告人は強盗殺人等の罪に問われ、第一審において死刑を言い渡された。被告人側は、死刑制度自体が憲法に違反するものであると主張し、また量刑の不当や事実誤認、自白の任意性欠如などを理由に上告した。…