一 日本國憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第一〇條第三項の規定は公判廷外の自白が被告人の不利益な唯一の證拠である場合にこれにより有罪とされ又は刑罰を科せられないという趣旨であつて公判廷の自白を包含しないと解すべきである。 二 刑法第二三八條の規定は窃盜が財物の取還を拒ぎ又は逮捕を免かれ若しくは罪跡を湮滅する爲暴行又は脅迫を加へた以上被害者において財産を取還せんとし又は加害者を逮捕せんとする行爲を爲したと否とに拘はらず強盜を以つて論ずる趣旨であると解するのが妥當である。
一 被告人の公判廷における自白と憲法第三八條第三項及び刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる「本人の自白」 二 刑法第二三八條の法意
刑訴應急措置法10條3項,憲法38條3項,刑法238條
判旨
準強盗罪(刑法238条)の成立には、窃盗が逮捕免脱等の目的で暴行・脅迫を加えることで足り、被害者側が実際に逮捕や奪還等の行為に及んだことは不要である。また、公判廷における被告人の自白は、補強証拠がなくとも有罪の証拠とすることができる。
問題の所在(論点)
1. 準強盗罪(238条)の成立に、被害者による「逮捕の試み」や「財物奪還の行為」という客観的事実が必要か。 2. 公判廷における自白のみに基づき、補強証拠なしに有罪判決を下すことは許されるか。
規範
刑法238条の準強盗罪は、窃盗が財物の取還を拒み、逮捕を免れ、または罪跡を湮滅する目的で暴行または脅迫を加えた場合に成立する。同条の趣旨は、かかる目的での暴行・脅迫自体を重く処罰する点にあり、被害者側が実際に逮捕や財産奪還の挙に出たことまでは要件としない。また、憲法38条3項の補強証拠を要する自白とは「公判廷外」の自白を指し、公判廷での自白には適用されない。
重要事実
被告人Aは、共犯者らと共に工場から清罐済3樽を窃取した際、巡回中の倉庫番Dに発見されたと考え、逮捕を免れる目的で、所持していた匕首をDに突きつけ「騒ぐな」と脅迫し、暴行を加えた。被告人は、Dが実際にAを逮捕しようとしたり、被害品を取り返そうとしたりする現実の行為(着手)がなかった以上、準強盗罪は成立しないと主張して上告した。また、公判廷での自白のみに基づき有罪とされた点の違憲性も主張した。
あてはめ
1. 準強盗罪について、被告人Aは「逮捕を免れる目的」で、発見者Dに対し匕首を用いた脅迫・暴行を加えている。法文上、暴行・脅迫が目的達成のためになされた以上、被害者側が実際にどのような行動をとったかは罪の成否に影響しない。したがって、Dが具体的に逮捕を試みていなくても、Aの行為は準強盗罪を構成する。 2. 自白の補強法則について、公判廷では被告人は身体拘束を受けず自由な供述が可能であるため、公判廷での自白があれば、他に補強証拠がなくても人権擁護上の欠陥はない。本件では公判廷での自白と匕首の存在によって事実が認定されており、適法である。
結論
準強盗罪の成立に被害者側の逮捕行為等は不要であり、また公判廷の自白は唯一の証拠として有罪認定の基礎とすることができるため、原判決に違法はない。
実務上の射程
準強盗罪の既遂時期や成立要件を論じる際、犯行現場での時間的・場所的接続性に加え、本判例を根拠に「被害者の対応という偶発的事態に左右されず、犯人側の目的と行為によって決する」旨を論述できる。また、自白の補強法則(憲法38条3項)の適用範囲を画定する際の基礎的な射程を有する。
事件番号: 昭和24(れ)1499 / 裁判年月日: 昭和24年9月1日 / 結論: 破棄差戻
判示事實の前半では準強盜を後半では強盜と認められるような記載をして準強盜の罰條を適用した判決は、法令適用の基礎事實を明確にしなかつたので破棄差戻を相當とする。 事実認定の判示に当り、その前半においては、屋内で金品を物色中家人が目を覚したので逮捕を免かれたい気持から迫これを脅迫したと判示しながら、その後半においては、右の…
事件番号: 昭和24(れ)1066 / 裁判年月日: 昭和24年12月22日 / 結論: 棄却
一 原判決が判示第一事實を認定した證據としてA、Bに對する各司法警察官の聽取書中判示第一に照應する窃盗事実の各供述記載を舉げていること並びに記録中に右兩名に對する聽取書と題する書類の存在しないことは所論のとおりである。しかし、本件記録中に右兩名に對する司法警察官の訊問調書と題する書類が存在しその調書には判示第一に照應す…
事件番号: 昭和26(れ)588 / 裁判年月日: 昭和26年7月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察段階での自白が拷問によるものと疑われる場合であっても、それが証拠として引用されておらず、かつ他に拷問を裏付ける資料がない場合には、憲法38条違反の問題は生じない。また、原審で証人喚問の申請がなされていない以上、証人尋問の機会を奪ったとする違憲の主張は成立しない。 第1 事案の概要:被告人Aは警…