甲が,乙の運転態度に文句を言い謝罪させるため,夜明け前の暗い高速道路の第3通行帯上に自車及び乙が運転する自動車を停止させた過失行為は,自車が走り去ってから7,8分後まで乙がその場に乙車を停止させ続けたことなどの乙ら他人の行動等が介在して,乙車に後続車が追突する交通事故が発生した場合であっても,上記行動等が甲の上記過失行為及びこれと密接に関連してされた一連の暴行等に誘発されたものであったなど判示の事情の下においては,上記交通事故により生じた死傷との間に因果関係がある。
高速道路上に自車及び他人が運転する自動車を停止させた過失行為と自車が走り去った後に上記自動車に後続車が追突した交通事故により生じた死傷との間に因果関係があるとされた事例
刑法第1編第7章 犯罪の不成立及び刑の減免,刑法211条1項
判旨
夜明け前の暗い高速道路上に自車及び他車を停止させた過失行為は、後続車の追突等による重大な危険を有する。その後、他人の行動等が介在して事故が発生したとしても、それが当初の過失行為や一連の暴行等に誘発されたものであるならば、過失行為と結果との間には因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
高速道路上に車両を停車させた過失致死傷罪(刑法210条、211条)の成否において、被告人が現場を立ち去った後に他人の行動等が介在して発生した事故について、被告人の過失行為と死傷結果との間に因果関係が認められるか。
規範
実行行為に内在する結果発生の危険性が、介在事情を通じて現実化したといえる場合には、実行行為と結果との間に因果関係が認められる。介在事情が実行行為やそれと密接に関連する行為によって誘発されたものであるか否かが、危険の現実化を判断する重要な要素となる。
重要事実
被告人は、高速道路上で他車の運転態度に立腹し、パッシング等の執拗な停車要求により、夜明け前の暗い第3通行帯(追い越し車線)に自車と被害車両(A車)を停車させた。被告人はAに暴行を加えた後、現場を立ち去ったが、Aは暴行の混乱で自身のポケットに入れた鍵を紛失したと誤信して探し、さらに前方で事故停止していた別車両へ移動しようとした。被告人の離脱から約7〜8分後、依然として停車中であったA車に後続車が追突し、死傷者が発生した。
あてはめ
被告人が暗い高速道路の第3通行帯に車両を停止させた行為は、後続車追突の重大な危険を伴うものである。Aが現場に留まり続けたのは、被告人による停車要求や執拗な暴行により、鍵の紛失誤認や現場確認を余儀なくされたためであり、被告人の行為によって誘発されたといえる。したがって、被告人の過失行為が有していた後続車追突の危険が、Aの行動という介在事情を通じて現実化したものと評価できる。
結論
被告人の過失行為と被害者らの死傷との間には因果関係が認められ、過失致死傷罪が成立する。
実務上の射程
本判決は、実行行為後に第三者や被害者の行為が介在した場合でも、それが実行行為によって「誘発」されたものであれば因果関係を肯定する。危険の現実化論の枠組みにおいて、介在事情の異常性だけでなく、実行行為との密接関連性(誘発性)を重視する実務上の判断基準を示している。
事件番号: 昭和42(あ)710 / 裁判年月日: 昭和42年10月24日 / 結論: 棄却
自動車を運転していた甲が、自転車で通行中の乙と衝突し、これを自車の屋根の上にはね上げたまま走行中、これに気づいた同乗者丙が、乙の身体をさかさまに引きずり降ろし、舗装道路上に転落させた場合において、乙が右自動車との衝突および右道路免への転落によつて頭部等に傷害を負い、右頭部の打撲に基づく脳くも膜下出血等によつて死亡したと…
事件番号: 昭和44(あ)995 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 破棄差戻
被告人の過失が、訴因においては、濡れた靴をよく拭かずに履いていたため、一時停止の状態から発進するにあたりアクセルとクラツチペタルを踏んだ際足を滑らせてクラツチペルから左足を踏みはずした過失であるとされているのに対し、交差点前で一時停止中の他車の後に進行接近する際ブレーキをかけるのを遅れた過失であると認定するには、訴因の…
事件番号: 平成15(あ)1716 / 裁判年月日: 平成16年2月17日 / 結論: 棄却
暴行による傷害がそれ自体死亡の結果をもたらし得るものであった場合には,その治療中に被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在したとしても,上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。