暴行による傷害がそれ自体死亡の結果をもたらし得るものであった場合には,その治療中に被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在したとしても,上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。
被害者が暴行による傷害の治療中に医師の指示に従わなかったために治療の効果が上がらなかったとしても暴行と死亡との間に因果関係があるとされた事例
刑法第1編第7章 犯罪の不成立及び刑の減免,刑法205条
判旨
被告人らの暴行により生じた傷害が、それ自体死亡の結果をもたらし得るものであった場合、その後に被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかった等の事情が介在したとしても、実行行為と死亡との間の因果関係は否定されない。
問題の所在(論点)
被害者の不適切な行動(安静義務違反)という介在事情がある場合に、実行行為と死亡結果との間の因果関係(刑法上の因果関係)が認められるか。
規範
実行行為と結果との間に、被害者の不適切な行動等の介在事情が存在する場合であっても、実行行為が結果発生の直接的・有力な原因となっており、その行為自体に結果発生の高度の危険性が認められる場合には、刑法上の因果関係が認められる。
重要事実
被告人は共犯者と共に、深夜の路上で被害者の頭部をビール瓶で殴打し、さらに底の割れた瓶で後頸部を突き刺す等の暴行を加え、多量出血を伴う重傷を負わせた。被害者は手術を受け一時は容体が安定したが、同日中に被害者が無断退院しようとして治療用の管を抜いて暴れる等の行動をとり、その後容体が急変して脳機能障害により死亡した。記録上、被害者が安静に努めなかったことが治療効果を減殺した可能性が否定できなかった。
あてはめ
被告人らの暴行による左後頸部刺創は、頸椎に達し血管を損傷させるもので、それ自体死亡の結果をもたらし得る重大な身体の損傷であったといえる。被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったことが治療効果を減殺した可能性があるとしても、それは本件の重篤な傷害に付随する事情にすぎない。したがって、死亡の直接的要因は依然として被告人らの暴行による傷害にあり、実行行為の危険性が現実化したものと評価できる。
結論
被告人らの暴行による傷害と被害者の死亡との間には因果関係が認められ、傷害致死罪が成立する。
実務上の射程
被害者の行為が介在するケース(大阪南港事件等)における判断枠組みを示す。特に「実行行為自体が持つ死の危険性の大きさ」を重視する論理構成は、介在事情の異常性が疑われる事案での因果関係肯定の論拠として極めて有用である。
事件番号: 昭和28(あ)2315 / 裁判年月日: 昭和28年9月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】暴行による傷害と死因との関係において、被害者の持病や搬送時の不手際といった介在事情があったとしても、暴行が死因に直接的または複合的に影響を与えている限り、刑法上の因果関係は否定されない。 第1 事案の概要:被告人Bおよび共同被告人Cは、被害者Aに対して下駄を用いるなどの暴行を加え、後頭部に腫瘤を生…
事件番号: 平成15(あ)1346 / 裁判年月日: 平成16年10月19日 / 結論: 棄却
甲が,乙の運転態度に文句を言い謝罪させるため,夜明け前の暗い高速道路の第3通行帯上に自車及び乙が運転する自動車を停止させた過失行為は,自車が走り去ってから7,8分後まで乙がその場に乙車を停止させ続けたことなどの乙ら他人の行動等が介在して,乙車に後続車が追突する交通事故が発生した場合であっても,上記行動等が甲の上記過失行…