暴行の被害者が現場からの逃走途中に高速道路に進入するという極めて危険な行動を採ったために交通事故に遭遇して死亡したとしても,その行動が,長時間激しくかつ執ような暴行を受け,極度の恐怖感を抱いて,必死に逃走を図る過程で,とっさに選択されたものであり,暴行から逃れる方法として,著しく不自然,不相当であったとはいえないなど判示の事情の下においては,上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。
暴行とその被害者が現場からの逃走途中に遭遇した交通事故による死亡との間に因果関係があるとされた事例
刑法第1編第7章 犯罪の不成立及び刑の減免,刑法205条
判旨
被告人らによる長時間の激しい暴行によって極度の恐怖を抱いた被害者が、逃走の過程でとっさに高速道路へ進入し、車両に衝突されて死亡した場合、当該行為が著しく不自然、不相当とはいえず、暴行と死亡との間の因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
被害者が死に至る過程において、被害者自身の「高速道路への進入」という極めて危険な行為が介在している場合、被告人らの暴行と被害者の死亡との間に刑法上の因果関係を認めることができるか。
規範
実行行為と結果との間の因果関係の有無は、当該行為から結果が発生することが、経験則上、相当であるといえるか否か(相当因果関係)によって判断される。具体的には、被害者等の介在した行為が介在した場合であっても、その行為が被告人の行為によって誘発されたものであり、かつ、その行為が著しく不自然、不相当といえないときは、被告人の行為に結果を帰責することができる。
重要事実
被告人ら4名は共謀の上、深夜の公園およびマンションにおいて、被害者に対し計約3時間にわたり間断なく極めて激しい暴行を加えた。被害者は靴下履きのまま逃走したが、極度の恐怖感を抱いており、追跡を免れるために約10分後、約800m離れた高速道路に進入した。被害者はそこで走行中の自動車に衝突・れき過されて死亡した。
事件番号: 平成15(あ)1346 / 裁判年月日: 平成16年10月19日 / 結論: 棄却
甲が,乙の運転態度に文句を言い謝罪させるため,夜明け前の暗い高速道路の第3通行帯上に自車及び乙が運転する自動車を停止させた過失行為は,自車が走り去ってから7,8分後まで乙がその場に乙車を停止させ続けたことなどの乙ら他人の行動等が介在して,乙車に後続車が追突する交通事故が発生した場合であっても,上記行動等が甲の上記過失行…
あてはめ
被害者の高速道路進入は、それ自体は極めて危険な行為である。しかし、被害者は長時間にわたる激しく執拗な暴行を受け、極度の恐怖から必死に逃走を図る過程で、とっさに当該行動を選択したものである。このような状況下での逃走行動は、被告人らの暴行から逃れる方法として著しく不自然、不相当であったとはいえない。したがって、被害者の死は被告人らの暴行に起因するものと評価できる。
結論
被告人らの暴行と被害者の死亡との間には因果関係が認められ、傷害致死罪(または暴行による致死)の責を負う。原判決の判断は正当である。
実務上の射程
被害者が追い詰められた末の自傷的行為や危険な逃走行為を介在させた事案において、因果関係を肯定するための有力な根拠となる。答案では、介在行為の「誘発性」と「不自然・不相当性の欠如」を、直前の暴行の強度や被害者の心理状況から論証する際に用いる。
事件番号: 昭和58(あ)1537 / 裁判年月日: 昭和59年7月6日 / 結論: 棄却
被害者の死因となつたくも膜下出血が、被告人らの暴行に耐えかねた被害者が逃走しようとして池に落ち込み露出した岩石に頭部を打ちつけたため生じたものであるとしても、被告人らの暴行と被害者の右受傷に基づく死亡との間に因果関係を認めるのが相当である。
事件番号: 平成15(あ)1716 / 裁判年月日: 平成16年2月17日 / 結論: 棄却
暴行による傷害がそれ自体死亡の結果をもたらし得るものであった場合には,その治療中に被害者が医師の指示に従わず安静に努めなかったために治療の効果が上がらなかったという事情が介在したとしても,上記暴行と被害者の死亡との間には因果関係がある。