公職選挙法一三条、同法別表第一及び同法附則七項ないし九項による選挙区及び議員数の定めは、昭和五五年六月二二日の衆議院議員選挙当時、憲法一四条一項、一五条一項、三項、四四条但し書に違反していたものと断定することはできない。 (補足意見及び反対意見がある。)
公職選挙法一三二条、同法別表第一及び同法附則七項ないし九項による選挙区及び議員数の定めの合憲性
憲法14条1項,憲法15条1項,憲法15条3項,憲法44条但書,公職選挙法13条,公職選挙法別表第1,公職選挙法附則7項ないし9項
判旨
衆議院議員定数配分規定による投票価値の不平等が、国会の裁量権の限界を超える程度に達していても、直ちに憲法違反とはならず、是正のための合理的期間を経過してもなお是正されない場合に初めて違憲となる。
問題の所在(論点)
議員定数配分規定が憲法上の投票価値の平等の要求に反し違憲とされるための要件、および人口変動により生じた格差について「合理的期間内」の是正がなされなかったといえるか。
規範
憲法14条1項は投票価値の平等(投票の影響力の平等)を要求するが、選挙制度の具体的決定は国会の広い裁量に委ねられている。したがって、投票価値の不平等が国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているときは、国会の合理的裁量の限界を超えていると推定される。もっとも、人口動態による不平等が生じた場合、直ちに当該規定が違憲となるわけではなく、合理的期間内に是正がなされないときに初めて憲法に違反すると断定すべきである。
重要事実
昭和50年の公職選挙法改正(昭和50年改正法)により、衆議院議員一人当たりの人口較差は、直近の国勢調査に基づき最大1対2.92に縮小された。しかし、その後の漸次的な人口移動により、昭和55年6月実施の本件総選挙当時、選挙区間の議員一人当たりの選挙人数較差は最大1対3.94にまで拡大していた。被上告人は、この不平等が憲法14条1項等に違反するとして、公職選挙法204条に基づき選挙の無効を求めて提訴した。
あてはめ
本件選挙当時の最大較差1対3.94は、国会の裁量権を考慮しても一般的に合理性を有する程度を超え、投票価値の平等の要求に反する程度に達していた。しかし、昭和50年改正から本件選挙まで約5年、同規定施行から約3年半という期間は、人口移動が絶えず生じ、かつ頻繁な改正が政治的安定を損なう実務的制約を鑑みれば、合理的期間内における是正が行われなかったと断定するに足りる期間とはいえない。したがって、本件選挙当時において本件議員定数配分規定を憲法違反と断定することは困難である。
結論
本件選挙当時の議員定数配分規定を憲法に違反するものと断定することはできないため、本件選挙を違法とした原判決を変更し、被上告人の請求を棄却する。
実務上の射程
定数不均衡訴訟において「違憲状態(憲法の要求に反する程度の格差)」と「違憲(合理的期間の経過)」を区別する二段階審査枠組みを確立した。司法試験答案では、まず格差が裁量の限界を超えているかを論じ、次に是正のための合理的期間が経過しているかを検討する構成をとる。また、本判決では否定されたが、事情判決の法理(行政事件訴訟法31条1項)の適用の可否についても、違憲と断定される場合の救済方法として重要である。
事件番号: 平成3(行ツ)111 / 裁判年月日: 平成5年1月20日 / 結論: 棄却
公職選挙法(平成四年法律第九七号による改正前のもの)一三条一項、別表第一、附則七ないし一〇項の衆議院議員の議員定数配分規定は、平成二年二月一八日施行の衆議院議員選挙当時、憲法一四条一項に違反していたものと断定することはできない。 (意見及び反対意見がある。)