受任者の利益のためにも締結された委任契約であつても、その契約において委任者が委任契約の解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合は、委任者は、やむをえない事由がなくても、民法六五一条に則り右契約を解除することができる。
受任者の利益のためにも締結された委任契約において委任者が解除権自体を放棄したものとは解されない事情がある場合と民法六五一条
民法651条
判旨
受任者の利益のためにもなされた委任契約であっても、委任者が解除権を放棄したと解されない事情があるときは、委任者は民法651条に基づき契約を解除できる。その際、受任者が不利益を受ける場合は損害賠償によって補填すれば足りる。
問題の所在(論点)
受任者の利益のためにも締結された委任契約において、委任者は民法651条に基づく解除権を自由に行使できるか。特に「やむを得ない事由」がない場合の解除の可否が問題となる。
規範
委任契約が受任者の利益のためにもなされた場合、①受任者が著しく不誠実な行動に出る等の「やむを得ない事由」があるときは当然に解除できる。また、②そのような事由がない場合であっても、委任者が解除権自体を放棄したと解されない事情があるときは、民法651条により解除が可能である。この場合、受任者の不利益は損害賠償(同条2項)により填補されるべきである。
重要事実
委任者Dは、建物管理事務の一切を被上告人に委ねる管理契約を締結した。被上告人は管理を無償で行う一方、Dから預かった保証金880万円を自己の事業資金として常時自由に利用できる利益を有していた。約11年後、Dは被上告人に対し管理契約の解除を通知し、保証金の返還を請求した。原審は、受任者の利益のための委任であることを理由に、やむを得ない事由がない限り解除できないとした。
事件番号: 昭和42(オ)219 / 裁判年月日: 昭和43年9月20日 / 結論: 棄却
委任契約に基づく委任事務の処理が、委任者の利益であると同時に受任者の利益でもある場合においても、受任者が著しく不誠実な行動に出た等やむをえない事由があるときは、委任者は民法第六五一条に則り委任契約を解除することができる。
あてはめ
本件管理契約は、Dの事務を処理するだけでなく、被上告人が保証金を無利息に近い形で事業資金に利用できるという「受任者の利益」も目的としている。しかし、委任契約は相互の信頼関係を基礎とするものであり、委任者の意思に反して事務処理を強制することは契約の本旨に反する。したがって、Dにおいて解除権を放棄したと解される特段の事情がない限り、民法651条による解除が認められる。原審は解除権放棄の有無を判断せずに解除を否定しており、審理不尽といえる。
結論
委任者は、解除権を放棄したと解されない事情がある限り、受任者の利益のための委任であっても民法651条により解除できる。原判決を破棄し、解除権放棄の有無等について審理させるため差し戻す。
実務上の射程
民法651条1項の原則自由解除を維持しつつ、受任者の利益を損害賠償(2項)で保護する枠組みを示した重要判例である。答案では、まず本条の趣旨(信頼関係の基礎)を述べた上で、特約による解除権制限(放棄)の有無を検討し、放棄がない限り解除可能とする論理構成に用いる。
事件番号: 昭和39(オ)98 / 裁判年月日: 昭和40年12月17日 / 結論: 棄却
受任者が受任事務の処理について利益を有する委任契約であつても、やむをえない事由があるときは、委任者は契約を解除することができる。