一、労働委員会が不当労働行為により解雇された労働者の救済命令において解雇期間中の得べかりし賃金相当額の遡及支払を命ずる場合に、被解雇者が右期間中他の職に就いて収入を得ていたときは、労働委員会は、解雇により被解雇者の受けた個人的被害の救済の観点のみから右他収入額を機械的にそのまま控除すべきではなく、右解雇が使用者の事業所における労働者らの組合活動一般に対して与えた侵害を除去し正常な集団的労使関係秩序を回復、確保するという観点をもあわせ考慮して、合理的裁量により、右他収入の控除の要否及びその程度を決定しなければならない。 二、不当労働行為によつて解雇された労働者がタクシー運転手であつて、解雇後比較的短期間内に他のタクシー会社に運転手として雇用されて従前の賃金額に近い収入を得ており、また、タクシー運転手の同業他桂への転職が当時比較的頻繁かつ容易であつたことなどにより、解雇による被解雇者の打撃が軽少で、当該事業所における労働者らの組合活動意思に対する制約的効果にも通常の場合とかなり異なるものがあつたなど判示の事情がある場合には、右他収入の控除を全く不問に付して賃金相当額全額の遡及支払を命じた労働委員会の救済命令は、特段の理由のない限り、裁量権行使の合理的な限度を超えるものとして、違法である。
一、労働委員会が不当労働行為為により雇された労働者の救済命令において賃金相当額の遡及支払を命ずる場合と右労働者が解雇期間中他の職に就いて得た収入額の控除 二、不当労働行為によつて解雇された労働者が解雇期間中他の職に就いて得た収入を控除しないで賃金相当額全額の遡及支払を命じた労働委員会の救済命令が違法とされた事例
労働組合法7条1号,労働組合法27条4項
判旨
不当労働行為による解雇に対するバックペイ命令において、労働委員会は、被解雇者の個人的被害の救済と集団的労使関係の回復の両面から中間収入控除の要否を検討すべきであり、これを全く考慮しないことは裁量権の逸脱として違法となる。
問題の所在(論点)
不当労働行為に基づく解雇の救済としてバックペイを命じる際、労働委員会が解雇期間中の中間収入を控除しないことが、労組法27条に基づく裁量権の逸脱・濫用にあたるか。
規範
労働委員会による救済命令(労組法27条)は、専門的知識経験に基づく広い裁量に委ねられるが、不当労働行為による被害の救済という目的による限界がある。解雇に対するバックペイ命令において中間収入を控除すべきか否かは、①被解雇者の個人的な経済的被害の救済(実害の回復という観点)と、②組合活動一般に対する侵害の除去(正常な労使関係の回復という観点)の両面から総合的に考慮して決定すべきである。したがって、中間収入の有無を全く考慮せず、常に賃金相当額全額の支払を命ずることは、合理性を欠き裁量権の逸脱・濫用となる。
事件番号: 昭和59(行ツ)235 / 裁判年月日: 昭和62年4月2日 / 結論: その他
不当労働行為によつて解雇された労働者が解雇期間中他の職に就いて収入を得ていた場合に、労働委員会が、右労働者の救済命令において解雇期間中の賃金相当額の遡及支払を命ずるに当たり、当該解雇が右労働者の属する労働組合の他の組合員に対する出勤停止処分と共に右労働組合に対し打撃を加える目的の下にされたものであるとの事情を考慮に入れ…
重要事実
タクシー会社に勤務していた労働者ら(補助参加人ら)が、正当な組合活動を理由に解雇された。これに対し、上告委員会は不当労働行為を認め、原職復帰と解雇期間中の賃金相当額全額の支払(バックペイ)を命じる救済命令を出した。しかし、労働者らのうち大半は、解雇の翌日から約1か月後には同業他社に運転手として再雇用され、従前の賃金に近い中間収入を得ていた。上告委員会は、これらの中間収入を一切控除せずに全額の支払を命じたため、会社側が命令の取消しを求めて提訴した。
あてはめ
①個人的被害の面では、補助参加人らは同業他社で運転手として稼働しており、その収入は従前の労務からの解放によって可能となった労働力の対価といえる。労務の性質も同一であり、機械的控除が合理性を欠くような特段の事情(過度な負担等)も認められないため、控除を考慮すべき実害の回復といえる。②集団的侵害の面では、当時のタクシー業界は同業他社への転職が容易であり、現に短期間で再就職が成功している。この事実に照らせば、解雇による打撃や組合活動への萎縮効果は比較的軽少であったと判断される。以上から、中間収入を全く不問に付して全額給付を命じることは、救済の必要性の判断において合理性を欠く。
結論
本件バックペイ命令は、中間収入の控除について何ら具体的な考慮をしておらず、労働委員会の裁量権の合理的な行使の限度を超えたものとして違法である。
実務上の射程
労働委員会の裁量権の逸脱・濫用の審査基準を示す重要判例。民事裁判上のバックペイ(民法536条2項但書、労基法26条)とは異なり、行政救済としての特有の観点(集団的労使関係の回復)が含まれる点に注意が必要。答案では「裁量の逸脱・濫用(行訴法30条)」の論脈で、本判決の二要素(個人的救済と集団的救済)を規範として用いる。
事件番号: 昭和50(行ツ)30 / 裁判年月日: 昭和52年5月2日 / 結論: 棄却
省略
事件番号: 昭和36(オ)519 / 裁判年月日: 昭和37年9月18日 / 結論: 棄却
不当労働行為によつて解雇された労働者が解雇期間内に他の職について収入を得た場合、労働委員会は、いわゆる救済命令において使用者に対し遡及賃金の支払いを命ずるにあたり、右収入が副業的なものであつて解雇がなくても当然取得できる等特段の事情がないかぎり、これを遡及賃金額から控除することを必要とする。
事件番号: 平成3(行ツ)91 / 裁判年月日: 平成7年2月23日 / 結論: その他
甲労働組合の内部抗争によりそれぞれ甲組合と同一名称を名乗る乙組合と丙組合とが併存するに至った後に、使用者が、甲組合とのいわゆるチェック・オフ協定に基づき、乙組合の組合員から組合費のチェック・オフを行い、これを丙組合に交付したことが不当労働行為に当たる場合であっても、右組合費相当額を、組合員個人に対してではなく、乙組合に…