甲労働組合の内部抗争によりそれぞれ甲組合と同一名称を名乗る乙組合と丙組合とが併存するに至った後に、使用者が、甲組合とのいわゆるチェック・オフ協定に基づき、乙組合の組合員から組合費のチェック・オフを行い、これを丙組合に交付したことが不当労働行為に当たる場合であっても、右組合費相当額を、組合員個人に対してではなく、乙組合に支払うことを命ずる救済命令は、乙組合との間にチェック・オフ協定の締結もなく、組合員からのその旨の委任もない以上、救済命令に関する労働委員会の裁量権の合理的行使の限界を超えるものとして、違法である。
労働組合の組合員から組合費のチェック・オフを行ってこれを併存する別組合に交付したことが不当労働行為に当たる場合に右組合費相当額を組合員にではなくその所属組合に支払うことを命ずる救済命令が違法とされた事例
労働組合法7条3号,労働組合法27条4項,労働組合法27条12項,労働基準法24条1項
判旨
チェック・オフ中止の申入れ後も会社が控除を続け、他方の組合に交付した行為は支配介入に当たる。一方、その救済として労働委員会が会社に対し、組合員から控除済みの金員を直接労働組合へ支払うよう命じることは、裁量権の限界を超える違法な命令となる。
問題の所在(論点)
1. 組合員からのチェック・オフ中止申入れを無視して控除を継続し、他方の組合に交付する行為が支配介入(労組法7条3号)に該当するか。 2. 控除された賃金相当額を組合員本人ではなく「労働組合」へ支払うよう命じる救済命令が、労働委員会の裁量権の範囲内か。
規範
1. 組合員はいつでもチェック・オフの中止を申し入れることができ、使用者はこれに応じる義務を負う。中止申入れ後の控除及び他組合への交付は、組合の運営に対する支配介入(労組法7条3号)となる。 2. 労働委員会の救済命令には広い裁量権が認められるが、不当労働行為がなかったと同様の事実上の状態を回復するという目的による限界がある。救済命令の内容が、不当労働行為がなかった状態から著しくかけ離れ、かつ私法上の法律関係や労基法24条1項の趣旨に抵触する場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
事件番号: 平成3(行ツ)91 / 裁判年月日: 平成7年2月23日
【結論(判旨の要点)】チェック・オフ中止の申入れを無視した継続は支配介入の不当労働行為に当たるが、その救済として控除済みの組合費相当額を直接組合に支払うよう命ずることは、労働委員会の裁量権を逸脱し違法である。 第1 事案の概要:会社には内部抗争により「参加人組合」と「訴外組合」が併存していた。参加人組合員は会社に対しチ…
重要事実
1. X社には旧C労組が存在したが、分裂して参加人組合と訴外組合が併存するに至った。 2. 参加人組合の組合員らは、X社に対しチェック・オフの中止を申し入れたが、X社はこれを無視して控除を継続し、控除額をライバル関係にある訴外組合の口座等に交付した。 3. 労働委員会は支配介入を認め、X社に対し「控除した組合費相当額に参加人組合が請求する利息を付して、同組合へ直接支払え」との給付命令を含む救済命令を出した。
あてはめ
1. X社は参加人組合の存在と組合員氏名を把握しながら中止申入れを無視し、あえて対立する訴外組合に資金を交付しており、参加人組合の弱体化を図る支配介入に当たる。 2. 救済命令については、本来控除された金員は組合員個人の賃金である。中止後に生じた不当労働行為の侵害状態は、会社が控除を止め、控除済みの賃金を組合員本人に返還することで回復される。チェック・オフ協定や個別の委任が存在しないにもかかわらず、組合への直接支払を命じることは、不当労働行為がなかった状態を超えて組合に有利な状態を作出するものであり、私法的関係や直接払いの原則(労基法24条1項)にも抵触するため、裁量の限界を超える。
結論
X社の行為は支配介入として不当労働行為を構成するが、労働委員会が組合への金員支払を命じた部分は、救済命令としての裁量権を逸脱し違法である。
実務上の射程
チェック・オフの中止・再開が絡む支配介入の成否だけでなく、給付命令(バックペイ等以外)の限界を論じる際のリーディングケースである。原状回復の範囲を「不当労働行為がなかったならば存在したであろう状態」に限定し、私法的秩序との整合性を重視する答案構成に有用である。
事件番号: 平成5(行ツ)141 / 裁判年月日: 平成7年4月14日 / 結論: その他
従来、時間外割増賃金及び深夜割増賃金を含むとの認識の下に水揚高に一定率を乗じた歩合による賃金を支払っていた使用者が、労働基準監督署から割増賃金部分を明確にするよう指導を受けたため、水揚高に従前の率を若干下回る率を乗じた金額を基礎給としこれに時間外割増賃金及び深夜割増賃金を加算して支払うことを内容とする賃金計算方法を採用…
事件番号: 昭和55(行ツ)40 / 裁判年月日: 昭和61年1月24日 / 結論: 棄却
相前後して結成された甲乙二つの労働組合が併存する会社において、各組合結成直前の年度の賞与においては後に甲乙各組合員となつた者らの平均人事考課率にほとんど差異がなかつたのに、各組合結成直後の年度の賞与においては甲組合員の人事考課率が乙組合員らのそれと比較して低く査定されその間に全体として顕著な差異が生じており、また、甲組…
事件番号: 昭和57(行ツ)50 / 裁判年月日: 昭和62年5月8日 / 結論: 棄却
使用者がその企業内に併存する甲乙二つの労働組合のうち多数派の甲組合に対して組合事務所等を貸与しながら、少数派の乙組合に対しては専従者の職場復帰問題の解決が先決であることなどを理由にその貸与を拒否している場合において、甲組合との間では貸与に際し特段の条件を付したり前提となる取引を行つたりしておらず、右職場復帰問題は組合事…
事件番号: 昭和63(行ツ)157 / 裁判年月日: 平成元年12月11日 / 結論: その他
一 いわゆるチェック・オフは、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)二四条一項但書の要件を具備しない限り、これをすることができない。 二 使用者が過去一五年余にわたってしてきたいわゆるチェック・オフを中止した場合において、当時労働組合から脱退者が続出して、労働組合が当該事業場の従業員の過半数で組織されて…