公職選挙法第一九四条および同法施行令第一二七条による選挙運動費用額が一八四、〇〇〇円であるべきところ、これを八四、〇〇〇円と告示して執行した町長選挙は、無効と解するのが相当である。
選挙運動費用法定額を過少に告示して執行した選挙が無効とされた事例。
公職選挙法194条,公職選挙法196条,公職選挙法205条,公職選挙法施行令127条
判旨
選挙運動費用の告示額が真実の法定費用額を著しく下回る誤算がある場合、当落に異動を及ぼす可能性がないことを確実と認めるに足りる具体的事情がない限り、選挙は無効となる。当選の蓋然性までは不要であり、当落が変わり得ることの否定しがたい可能性があれば「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があると解される。
問題の所在(論点)
選挙運動費用制限額の誤算告示という「選挙の規定に違反する」事実がある場合において、公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」と認められるための判断基準が問題となる。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞」があるとは、選挙の規定に違反する事実がなければ、現実の選挙結果と異なった結果(当落の異動)になった可能性があることをいう。その判断にあたっては、違法が各候補者の得票数に及ぼす影響をみだりに憶測すべきではなく、当落に異動を及ぼす可能性のないことが確実と肯認できる具体的事情がない限り、選挙は無効と判定されるべきである。
重要事実
町長選挙において、本来の選挙運動費用額は18万4,000円であるべきところ、8万4,000円と誤って告示された。この誤算は法定額の半分にも満たない著しいものであった。選挙の結果、1,022票という大差で当選者が決定したが、次点者Bが選挙無効を求めて提訴した。上告人は、得票差が大きいことから、正しい費用額で行われてもBが当選した蓋然性はないと主張した。
事件番号: 昭和33(オ)55 / 裁判年月日: 昭和33年4月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の「選挙の結果に異同を及ぼす虞」の有無は、原則として無効投票数と得票差の比較により判断すべきであり、代理投票の手続違背があっても、得票差が著しく大きい場合には選挙の結果に異同を及ぼす虞があるとは認められない。 第1 事案の概要:ある選挙において、投票管理者が立会人の立ち会いもなく自ら代…
あてはめ
本件では告示額が正しい費用の半分にも満たず、各候補者の運動方法に重大な制約を与えたといえる。このような著しい誤算がある場合、各候補者の得票数への影響を正確に予測することは困難である。1,022票の得票差があるとしても、その事実のみから直ちに次点者の当選の可能性を否定することはできない。したがって、当落に異動を及ぼす可能性がないことを確実と肯認するに足りる具体的事情が認められない限り、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるといえる。
結論
本件告示の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと認められ、選挙は無効となる。
実務上の射程
選挙無効訴訟における「選挙の結果に異動を及ぼす虞」の判断基準を示す重要な射程を持つ。単なる抽象的な可能性ではなく「否定しがたい可能性」を要求しつつ、立証責任の観点からは、違法がある場合に「結果に異動がないことの確実性」が示されない限り無効とするという、選挙の公正を重視する姿勢を示している。
事件番号: 昭和41(行ツ)59 / 裁判年月日: 昭和41年12月6日 / 結論: 棄却
一 不在者投票手続における投票の立会人は、当該市町村の選挙人名簿に登録された者一名のみで足りる。 二 不在者投票管理者が不在者投票を直ちにその選挙人の属する投票区の投票管理者に送致しなかつたとしても、それが投票所閉鎖時刻までに送致されている以上、選挙の効力に影響しない。 三 選挙人名簿に多数の無資格者が誤載されていたと…
事件番号: 昭和36(オ)586 / 裁判年月日: 昭和36年10月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙事務の手続に違法がある場合でも、投票箱の保管状況等の諸事情を総合考慮し、当該違法が選挙の結果に異動を及ぼす虞がないと認められるときは、選挙の効力は否定されない。 第1 事案の概要:ある選挙において、選挙長が開票事務を一時中止した。その際、投票箱の封印および旋錠が不十分な状態であったという手続上…
事件番号: 昭和41(行ツ)47 / 裁判年月日: 昭和41年11月25日 / 結論: 破棄差戻
いわゆる替玉投票またはたらい回し投票が行なわれた事実があるだけでは、公職選挙法第二〇五条第一項にいう選挙の規定の違反があるとはいえない。