無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合には、本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。
無権代理人が本人を相続した場合における無権代理行為の効力。
民法113条,民法117条,民法896条
判旨
無権代理人が本人を単独相続した場合、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位が生じる。この理は、無権代理人が共同相続人の一人であっても、他の相続人の相続放棄により単独相続に至った場合にも妥当する。
問題の所在(論点)
無権代理人が本人を単独相続した場合(特に、共同相続人の一部が相続放棄したことで単独相続に至った場合)において、無権代理行為の効力はどうなるか。また、その場合に表見代理(民法110条)の成否はどう判断されるか。
規範
無権代理人が本人を相続し、本人と代理人の資格が同一人に帰属するに至った場合、本人が自ら法律行為をしたのと同様の法律上の地位が生じる。この法理は、無権代理人が当初は共同相続人の一人であったとしても、他の相続人の相続放棄によって結果的に単独相続人となった場合にも適用される。
重要事実
亡Dの親族である上告人は、Dから代理権を付与されていないにもかかわらず、Dの代理人と称して訴外Eに対し、D所有地の担保提供による金融借入を依頼した。上告人はDの印鑑等を無断で使用して委任状等を作成しEに交付した。Eはこれらの書類を用い、代理権の範囲を超えて本件土地を被上告人Bに売却し、移転登記を経由した。その後Dが死亡し、当初は共同相続人がいたものの、他の相続人全員が相続放棄をしたため、無権代理人である上告人が単独でDを相続した。
事件番号: 昭和38(オ)1227 / 裁判年月日: 昭和41年9月8日 / 結論: その他
所有権に基づき土地の明渡を求めた当事者が相手方に対しその土地の使用を許した事実を主張し、裁判所がこれを確定した場合には、相手方が右事実を自己の利益に援用しなかつたときでも、裁判所は、その当事者の請求の当否を判断するについてその事実をしんしやくすべきである。
あてはめ
上告人は、無権代理人としてEに権限を逸脱する行為を誘発させる原因を作りながら、本人Dを単独で相続した。この場合、上告人はDの授権がなかったことを主張することは許されず、Dが自ら法律行為を行ったのと同様の地位に立つ。本件では、上告人がEに対し「土地を担保に金融を受ける」という一定の権限(基本代理権)を付与したのと同様の状況にあり、Eがその範囲を超えてBに売却した際、BにおいてEに権限があると信ずべき正当な理由があるならば、表見代理が成立する。
結論
無権代理人が本人を単独相続した以上、上告人は売買の無効を主張できず、表見代理の成立により売買契約の効力を受ける。上告人の請求は認められない。
実務上の射程
無権代理人が単独相続した場合は当然に有効となる(資格融合説的構成)。本件は、当初共同相続であっても相続放棄により単独相続となった場合に、この単独相続の法理が維持されることを示した点に意義がある。答案上は、まず相続による地位の承継を論じ、信義則または資格融合により無権代理人が追認拒絶できないことを示してから、表見代理等の成否を検討する流れとなる。
事件番号: 昭和58(オ)1362 / 裁判年月日: 昭和63年3月1日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人を本人とともに相続した者がその後更に本人を相続した場合においては、本人が自ら法律行為をしたと同様の法律上の地位ないし効果を生ずるものと解するのが相当である。
事件番号: 平成4(オ)87 / 裁判年月日: 平成5年1月21日 / 結論: 棄却
無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。 (反対意見がある。)
事件番号: 昭和39(オ)1052 / 裁判年月日: 昭和41年1月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金員借入の委任を受けた代理人が不動産を売却した事案において、本人に直接確認せずとも表見代理の「正当な理由」が認められ得ること、及び借入の手段を一任された場合は処分権限も含むと解されることを示した。 第1 事案の概要:上告人(本人)は、訴外Dに対し、本件田を担保として金員を借り入れることを委任し、そ…
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…