一 家事審判法第九条第一項乙類第三号の婚姻費用の分担に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 婚姻費用分担義務を前提とする審判がなされた場合でも、右分担義務の存否については、別に訴を提起することを妨げない。 三 家庭裁判所は、審判時から過去に遡つて、婚姻費用の分担に関する処分をすることができる。
一 家事審判法第九条第一項乙類第三号の婚姻費用の分担に関する処分の審判の合憲性。 二 婚姻費用の分担に関する審判の効力。 三 家庭裁判所は審判時から過去に遡つて婚姻費用の分担に関する処分をすることができるか。
憲法32条,憲法82条,民法760条,家事審判法9条1項乙類3号,家事審判法7条,家事審判法15条,家事審判規則6条
判旨
婚姻費用の分担に関する処分は、具体的な分担額を裁量により形成する非訟事件の性質を有するため、対審および判決によることなく家事審判で行うことは憲法82条、32条に違反しない。
問題の所在(論点)
婚姻費用の分担に関する処分を、公開の法廷における対審・判決によらない家事審判手続によって行うことが、憲法82条および32条に違反しないか。また、婚姻費用の分担額を決定するにあたり、過去に遡ってその額を決定することは許されるか。
規範
憲法82条および32条は、純然たる訴訟事件について公開の法廷での対審・判決を要求する。これに対し、家事審判法に基づく婚姻費用分担の処分は、資産や収入その他一切の事情を考慮し、後見的・合目的的な見地から具体的分担額を決定する「裁量的形成処分」であり、その性質は非訟事件である。したがって、公開法廷での対審および判決を要しない。ただし、前提となる費用負担義務自体の存否の終局的確定は、別途通常訴訟により争う余地が残されているため、審判手続による運用は合憲である。
重要事実
事件番号: 昭和37(ク)103 / 裁判年月日: 昭和37年10月31日 / 結論: 棄却
消極。
抗告人は、家事審判法に基づき家庭裁判所がなした婚姻費用分担に関する処分(過去の婚姻費用を含む)に対し、当該処分が憲法82条(公開裁判の原則)および32条(裁判を受ける権利)に違反し、また過去の婚姻費用の遡及的決定は許されないと主張して、特別抗告を申し立てた。
あてはめ
婚姻費用分担の処分(民法760条、家事審判法9条1項乙類3号)は、実体的な権利義務関係を終局的に確定するものではなく、裁量に基づき具体的な給付内容を形成するものであるから、非訟事件に分類される。本件審判は、家庭裁判所が後見的立場から裁量権を行使して分担額を決定したものであり、純然たる訴訟事件には当たらない。また、前提となる負担義務自体を確定するものではないため、国民が通常訴訟で争う途を閉ざすものでもない。さらに、分担額の決定にあたり、過去に遡って形成決定することを禁止する根拠はない。
結論
婚姻費用分担の審判手続は、憲法82条および32条に違反しない。また、家庭裁判所は過去に遡って婚姻費用の分担額を決定することができる。
実務上の射程
憲法上の「純然たる訴訟事件」と「非訟事件」の区別を論じる際のリーディングケースである。答案上は、家事審判手続の合憲性を基礎づける際、当該手続が「裁量的形成処分」であること、および「前提となる権利義務自体の確定を目的としない」ことを理由として引用する。また、過去の婚姻費用の遡及的請求が認められる実体法上の根拠としても活用できる。
事件番号: 平成19(ク)1128 / 裁判年月日: 平成20年5月8日 / 結論: 棄却
婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審が,抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことは,憲法32条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものとはいえない。 (補足意見及び反対意見がある。)
事件番号: 昭和36(ク)419 / 裁判年月日: 昭和40年6月30日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第一号の夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分の審判についての規定は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 夫婦の同居義務等を前提とする審判が確定した場合でも右同居義務等自体については、別に訴を提起することを妨げるものではない。 (補足意見および意見がある。)
事件番号: 昭和39(ク)114 / 裁判年月日: 昭和41年3月2日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第一〇号の遺産の分割に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 家庭裁判所は、遺産の分割に関する処分の審判の前提となる相続権、相続財産等の権利関係の存否を、右審判中で、審理判断することができる。
事件番号: 昭和59(ク)112 / 裁判年月日: 昭和59年12月20日 / 結論: 棄却
家事審判法九条一項乙類四号所定の子の監護に関する処分にかかる審判についての規定は、憲法三二条、八二条に違反しない。