一 家事審判法第九条第一項乙類第一号の夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分の審判についての規定は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 夫婦の同居義務等を前提とする審判が確定した場合でも右同居義務等自体については、別に訴を提起することを妨げるものではない。 (補足意見および意見がある。)
一 家事審判法第九条第一項乙類第一号の夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分の審判についての規定の合憲性 二 夫婦の同居義務等に関する審判の効力
憲法32条,憲法82条,民法752条,家事審判法9条1項乙類1号,家事審判法7条,家事審判法15条
判旨
夫婦同居の義務等の法律上の実体的権利義務自体を終局的に確定するには公開法廷での対審・判決を要するが、家事審判はこれら実体的権利義務の存在を前提としてその具体的な時期・場所・態様等を定める形成的処分にすぎないため、非公開の審判手続で行っても憲法82条等に違反しない。
問題の所在(論点)
家事審判法9条1項乙類に基づき、夫婦の同居等の事項を非公開の審判手続によって裁判することは、憲法82条(対審・判決の公開)および憲法32条(裁判を受ける権利)に違反するか。
規範
1. 法律上の実体的権利義務自体につき争いがあり、これを終局的に確定することは固有の司法の主たる作用であり、公開の法廷における対審及び判決によらなければならない(憲法82条、32条)。これを非訟事件手続等により決定の形式で裁判することは、立法をもってしても許されない。 2. もっとも、実体的権利義務の存在を前提として、その具体的な内容(時期、場所、態様等)を合目的的な見地から裁量によって形成する裁判は、本質的に非訟事件の裁判であり、公開の法廷における対審及び判決を要しない。
重要事実
抗告人(夫)に対し、家庭裁判所が家事審判法9条1項乙類に基づき「相手方(夫)はその住居で申立人(妻)と同居しなければならない」旨の審判をした。抗告人は、同条項が非公開の手続による審判で同居義務を裁判することを定めている点は、公開裁判の原則を定める憲法82条、裁判を受ける権利を定める憲法32条に違反すると主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和37(ク)243 / 裁判年月日: 昭和40年6月30日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第三号の婚姻費用の分担に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 婚姻費用分担義務を前提とする審判がなされた場合でも、右分担義務の存否については、別に訴を提起することを妨げない。 三 家庭裁判所は、審判時から過去に遡つて、婚姻費用の分担に関する処分をすることができる。
あてはめ
1. 夫婦の同居義務(民法752条)は法律上の実体的権利義務であるが、家事審判法による審判は、この義務自体を終局的に確定するものではない。 2. 本件審判は、同居義務が存在することを前提に、同居の時期・場所・態様等の具体的内容を後見的立場から定める「形成的処分」である。これは本質的に非訟事件の裁判に該当する。 3. また、家事審判法による審判には確定判決と同一の効力(既判力)を認める規定がなく、前提となる同居義務自体の存否については、別途、公開の法廷における対審及び判決(通常訴訟)を求める途が閉ざされていない。したがって、審判手続による処理は憲法の要請を回避するものではない。
結論
家事審判法による夫婦の同居に関する審判規定は憲法82条、32条に違反しない。
実務上の射程
「純然たる訴訟事件」と「付随的・形成的裁判」を区別する。実体的権利義務の存否確定には公開法廷が必要だが、その存在を前提とした具体的内容の形成は非訟手続で足りるとする。答案上は、家事審判(非訟事件)が公開原則の例外として許容される論理的根拠(既判力の有無と訴訟への道)を論述する際に用いる。
事件番号: 昭和39(ク)265 / 裁判年月日: 昭和41年6月22日 / 結論: 棄却
家事審判に対する不服申立は抗告訴訟によるべきであるとして、家事審判法第七条、第一三条、第一四条の憲法第三二条違背をいう所論は、家事審判に対する上訴制度について立法政策上の意見を述べるに帰着し、右憲法の条規違背をいうに当らないと解される。
事件番号: 昭和59(ク)112 / 裁判年月日: 昭和59年12月20日 / 結論: 棄却
家事審判法九条一項乙類四号所定の子の監護に関する処分にかかる審判についての規定は、憲法三二条、八二条に違反しない。
事件番号: 昭和39(ク)114 / 裁判年月日: 昭和41年3月2日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第一〇号の遺産の分割に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 家庭裁判所は、遺産の分割に関する処分の審判の前提となる相続権、相続財産等の権利関係の存否を、右審判中で、審理判断することができる。
事件番号: 昭和59(ク)100 / 裁判年月日: 昭和59年10月4日 / 結論: 棄却
遺産の分割に関する処分の審判に対する抗告審の決定は、当事者の審尋を経ないでされても、憲法三二条、八二条に違反しない。