一 家事審判法第九条第一項乙類第一〇号の遺産の分割に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 家庭裁判所は、遺産の分割に関する処分の審判の前提となる相続権、相続財産等の権利関係の存否を、右審判中で、審理判断することができる。
一 家事審判法第九条第一項乙類第一〇号の遺産の分割に関する処分の審判の合憲性 二 遺産の分割に関する処分の審判の前提となる権利関係の存否を右審判中で審理判断することの可否
民法906条,民法907条,家事審判法9条1項乙類10号,家事審判法7条,家事審判法15条,家事審判規則6条,憲法32条
判旨
遺産分割審判の本質は非訟事件であり、家庭裁判所が後見的立場から裁量により具体的分割を形成するものであるから、憲法32条・82条に違反しない。また、審判の前提となる相続権等の存否に争いがある場合でも、審判手続内で判断して分割処分を行うことができ、既判力が生じない以上、別途民事訴訟で確定を求めることが可能である。
問題の所在(論点)
1.遺産分割審判が、公開法廷での対審・判決を経ずに行われることは、憲法82条・32条に違反するか。 2.遺産分割の前提となる権利関係(相続権の存否等)に争いがある場合、家庭裁判所が審判手続においてこれを判断することは許されるか。
規範
1.遺産分割審判は、家庭裁判所が後見的立場から合目的的に裁量を行使して具体的に分割を形成決定するものであり、その本質は非訟事件である。そのため、公開法廷における対審及び判決を必要としない。 2.遺産分割の前提となる法律関係(相続権や相続財産の存在等)は、実体法上の権利関係として訴訟事項になり得るが、家庭裁判所は民事訴訟による確定を待たず、審判手続において当該事項を審理判断した上で分割処分を行うことができる。 3.審判手続における前提事項の判断には既判力が生じないため、当事者は別途民事訴訟を提起して権利関係の確定を求めることが妨げられない。
重要事実
事件番号: 昭和59(ク)100 / 裁判年月日: 昭和59年10月4日 / 結論: 棄却
遺産の分割に関する処分の審判に対する抗告審の決定は、当事者の審尋を経ないでされても、憲法三二条、八二条に違反しない。
遺産分割に関する処分の審判において、抗告人が、遺産分割審判が公開法廷での対審・判決によらずに行われること、及び前提となる権利関係に争いがある場合に審判手続で判断されることが、憲法32条(裁判を受ける権利)及び憲法82条(裁判の公開)に違反するとして抗告した事案。
あてはめ
1.遺産分割審判は、民法906条に基づき一切の事情を考慮して裁量的に分割を形成する「非訟事件」である。非訟事件は権利義務を宣言するものではないため、憲法82条の規定は適用されず、裁判の公開原則に反しない。 2.前提となる相続権等の存否は訴訟事項ではあるが、家裁がこれを審理判断しても、その判断に「既判力」は生じない。当事者は別途民事訴訟を提起する途を閉ざされていないため、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害しない。 3.仮に民事訴訟の結果、審判の前提となった権利が否定されれば、分割審判はその限度で効力を失うことで調整が図られる。
結論
遺産分割審判の手続及びその中での前提事項の判断は、憲法32条・82条に違反しない。家庭裁判所は、前提事項に争いがあっても自ら審理して分割の処分を行うことができる。
実務上の射程
民事訴訟法・家事事件手続法の交錯領域における重要判例である。答案上は、遺産分割審判において「遺産性の有無」や「相続人の範囲」に争いがある場合でも、家裁が中間的に判断して審判を進められる根拠(既判力の欠如と手続の合理性)として引用する。ただし、実務上は訴訟での確定を待つために審判手続を中止する運用も多いため、あくまで「審判で判断できる」という許容性を示す文脈で使用する。
事件番号: 昭和39(ク)265 / 裁判年月日: 昭和41年6月22日 / 結論: 棄却
家事審判に対する不服申立は抗告訴訟によるべきであるとして、家事審判法第七条、第一三条、第一四条の憲法第三二条違背をいう所論は、家事審判に対する上訴制度について立法政策上の意見を述べるに帰着し、右憲法の条規違背をいうに当らないと解される。
事件番号: 昭和59(ク)112 / 裁判年月日: 昭和59年12月20日 / 結論: 棄却
家事審判法九条一項乙類四号所定の子の監護に関する処分にかかる審判についての規定は、憲法三二条、八二条に違反しない。
事件番号: 昭和57(ク)329 / 裁判年月日: 昭和59年3月22日 / 結論: 棄却
家事審判法九条一項乙類九号の推定相続人廃除に関する審判は、憲法八二条、三一条に違反しない。
事件番号: 昭和36(ク)419 / 裁判年月日: 昭和40年6月30日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第一号の夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分の審判についての規定は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 夫婦の同居義務等を前提とする審判が確定した場合でも右同居義務等自体については、別に訴を提起することを妨げるものではない。 (補足意見および意見がある。)