婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審が,抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことは,憲法32条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものとはいえない。 (補足意見及び反対意見がある。)
婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審が抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず,反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことと憲法32条
憲法32条,民法760条,家事審判法7条,家事審判法9条1項乙類3号,家事審判規則18条,非訟事件手続法25条,民訴法289条1項,民訴法331条本文
判旨
婚姻費用分担等の非訟事件は、憲法32条が保障する「純然たる訴訟事件」には当たらないため、抗告審において相手方に反論の機会を与えず不利益な変更をしても、直ちに同条違反とはならない。ただし、実務上は不利益変更を行う場合には、抗告状等の写しを送付するなど防御の機会を与えるべき配慮が必要である。
問題の所在(論点)
本質的に非訟事件である婚姻費用分担の審判に対する抗告審において、相手方に抗告状等の副本を送付せず、反論の機会を与えないまま不利益な判断をすることが、憲法32条の「裁判を受ける権利」を侵害するか。
規範
1. 憲法32条の「裁判を受ける権利」は、性質上固有の司法作用の対象となるべき「純然たる訴訟事件」につき裁判所の判断を求める権利を指す。 2. 婚姻費用の分担に関する処分は、本質的に非訟事件であり、純然たる訴訟事件には当たらない。 3. したがって、非訟事件の抗告審手続において当事者に手続関与の機会を与えないことは、憲法32条違反の問題を生じさせない。
重要事実
婚姻費用の分担を求める家事審判(乙類)において、原々審は夫(抗告人)に対し、過去の未払分95万円と月額12万円の支払を命じた。これに対し妻が即時抗告をしたところ、原審は夫に対し抗告状や理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えないまま、支払額を「未払分167万円・月額16万円」へと夫に不利益に変更する決定をした。夫はこれが憲法32条等に違反すると主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和37(ク)243 / 裁判年月日: 昭和40年6月30日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第三号の婚姻費用の分担に関する処分の審判は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 婚姻費用分担義務を前提とする審判がなされた場合でも、右分担義務の存否については、別に訴を提起することを妨げない。 三 家庭裁判所は、審判時から過去に遡つて、婚姻費用の分担に関する処分をすることができる。
あてはめ
1. 婚姻費用分担の審判は非訟事件であり、裁量的判断がなされる性質のものであるから、訴訟事件を前提とする憲法32条の保障が直接及ぶものではない。 2. 抗告人が主張する仮払金の既払事実などは、原審で審理されるべき事項ではあったが、手続関与の機会を逸した不利益は、直ちに憲法上の権利侵害には当たらない。 3. 原審の手続において即時抗告の事実を通知しなかった点には「十分な審理が尽くされていない疑い」や「実務上の配慮を欠いた問題」があるものの、それは憲法違反(特別抗告理由)のレベルには達しない。
結論
本件抗告を棄却する。非訟事件の手続において反論の機会を欠いたとしても、憲法32条違反には当たらない。
実務上の射程
非訟事件(家事審判乙類)における手続保障の限界を示した判例である。答案上は、非訟事件において民訴法上の厳格な対審構造や送達手続が欠けていても直ちに憲法違反とはならない根拠として引用する。一方で、多数意見・補足意見ともに「実務上の配慮」や「審理不尽の違法」の可能性に言及しており、憲法論ではなく民事訴訟法・家事事件手続法上の適法性(法令違反)を論ずる際には、手続保障の必要性を肯定する方向で活用できる。
事件番号: 昭和37(ク)103 / 裁判年月日: 昭和37年10月31日 / 結論: 棄却
消極。
事件番号: 昭和36(ク)419 / 裁判年月日: 昭和40年6月30日 / 結論: 棄却
一 家事審判法第九条第一項乙類第一号の夫婦の同居その他夫婦間の協力扶助に関する処分の審判についての規定は、憲法第三二条、第八二条に違反しない。 二 夫婦の同居義務等を前提とする審判が確定した場合でも右同居義務等自体については、別に訴を提起することを妨げるものではない。 (補足意見および意見がある。)
事件番号: 昭和52(ク)409 / 裁判年月日: 昭和54年7月19日 / 結論: 却下
扶養を命ずる審判に対する抗告事件の係属中に扶養権利者が死亡した場合に、抗告審が、死亡時までの扶養料債権が金銭債権として相続の対象となると解し、相続人に受継させたうえ抗告人にその支払を命じたとき、抗告審の右見解の当否は抗告人において別途民事訴訟によつてこれを争うことができ、いかなる意味においても憲法違反の問題を生ぜず、そ…
事件番号: 昭和26(ク)60 / 裁判年月日: 昭和26年5月21日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法において特に最高裁判所への抗告申立てが許容されている場合に限られる。民事事件における最高裁判所への抗告理由は、原決定における憲法判断の不当性を主張するもの(旧民訴法419条の2)に限定される。 第1 事案の概要:抗告人が最高裁判所に対して抗告を申し…