町の支所長が、町長の都合に基づく強引な勧告に応じて退職願を提出したが、即日撤回を決意し、翌日町長に宛てた退職願を取り消すとの書面を町役場に送付した場合は、その間、町長において辞令書を郵便に付し、また後任の事務取扱者を任命した事実があつても、当時の客観的情勢としては急速に後任者の発令をする必要が認められなかつたことをも勘案すれば、右退職願の撤回は、信義に反するものとはいえない。
地方公務員の退職願の撤回が信義に反しないとされた事例。
地方公務員法27条2項,民法1条2項
判旨
地方公務員の依願免職処分が辞令書の交付によって行われる場合、処分の効力は当該書面が相手方に到達した時に発生する。辞職願の撤回が辞令書交付前になされ、かつそれが信義則に反しない限り、その後の免職処分は違法として取り消されるべきである。
問題の所在(論点)
1. 辞令書の交付により行われる依願免職処分の効力発生時期はいつか。 2. 辞職願の撤回がなされた後に辞令書が到達した場合、免職処分の効力はどうなるか。
規範
1. 地方公務員の依願免職処分が辞令書の交付によって行われる場合には、本来要式行為であるか否かを問わず、辞令書が相手方に到達した時に処分の効力が発生する。 2. 辞職願の提出者は、免職処分の効力が発生するまでは、原則として辞職願を撤回できる。ただし、撤回が信義則に反すると認められる特段の事情がある場合はこの限りではない。
重要事実
町主事(被上告人)は、町長(上告人)から過去の経歴等を理由に執拗に辞職を迫られ、免職を恐れて辞職願を提出した。町長は直ちに辞令書を作成したが、被上告人が既に退去していたため書留郵便で送付した。被上告人は翌日、免職事由がないことを知って辞職願撤回の書面を町役場に送付し、町長がこれを知り得る状態となった。その後、被上告人のもとに辞令書が送達された。
事件番号: 昭和35(オ)694 / 裁判年月日: 昭和37年7月13日 / 結論: 破棄自判
一 小学校教諭が三月二五日に学校長に退職願を提出したが、同日夜撤回を決意し、翌二六日学校長に対し撤回方の尽力を依頼し、翌二七日市教育委員会学校教育課長に撤回を申し入れ、さらに、翌二八日に県教育委員会委員長に対し、退職願取消の申入と題する自己名義の文書に押印し発送した場合は、年度末教員の大異動が差し迫つていたからといつて…
あてはめ
1. 本件処分は辞令書の交付によって行われており、口頭の意思表示ではなく辞令書が被上告人に到達した時に初めて効力を生じる。被上告人が待期を拒否して立ち去ったとしても、辞令書作成準備完了時をもって効力発生を認めることはできない。 2. 被上告人による撤回の意思表示は、辞令書の到達(効力発生)前になされており、町長が了知し得る状態に置かれている。また、町長が性急に後任者を任命したものの客観的な必要性はなく、辞職を強要した経緯に照らせば、撤回が信義に反するともいえない。 3. したがって、有効な撤回により辞職願の存在という処分要件を欠くに至った後の免職処分は、重大明白な瑕疵とまではいえず無効ではないが、違法であり取り消されるべきである。
結論
本件依願免職処分は、有効な辞職願の撤回後になされたものであり違法であるため、これを取り消す。
実務上の射程
公務員の辞職願の撤回の可否および処分の効力発生時期に関する重要判例。行政処分一般の到達主義を確認しつつ、撤回が制限される「信義則」の判断枠組みを示している。答案上は、撤回の時期(処分前か)と、撤回を認めることによる行政運営への支障の有無(信義則)をセットで論じる。
事件番号: 昭和33(オ)538 / 裁判年月日: 昭和34年6月26日 / 結論: 棄却
一 公務員の退職願の撤回は、免職辞令の交付があるまでは、原則として自由であるが、辞令交付前においても、これを撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には、撤回は許されないものと解すべきである。 二 教育長は、教育委員会の補助機関として教育公務員の退職願およびその撤回の意思表示を受領する権限を有す…
事件番号: 昭和34(オ)396 / 裁判年月日: 昭和35年7月21日 / 結論: 棄却
一 町村合併による新町の発足により旧町村の正式職員であつた者が新たに新町の職員として任命されたような場合には、条件附任用に関する地方公務員法第二二条の適用はない。 二 地方公務員法第二八条第一項第一号、第三号に該当するかどうかの判断は、任命権者の純然たる自由裁量に任された事項ではなく、同条の趣旨にそう一定の客観的標準に…
事件番号: 昭和37(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和39年5月27日 / 結論: 棄却
町条例所定の定数をこえてなされた町吏員の任用が違法であるとしても、それが特定の町吏員の整理を目的としてことさら過員を生じさせるために行なわれたものでないと認めうる等原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、その任用の結果生じた過員を整理するための町吏員の待命処分は、違法でない。